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第31話

「唯人さんとその時約束したんだ。お前が高校卒業するまで、番にはしないし、手も出さないって。それとそういうことする時は必ず真の同意の上って」 「それで俺に手がだせないから、他の女にだしたと」 「だって真どんどん香りが強くなるし、我慢の限界だったんだよ。それに真が言ったんだろ。高校で童貞はキモイ。初めての時に経験のない奴とやる女は可哀想って」 「ばっ、あれは、友達とふざけた時の下ネタだろ。本気にすんなよ。大体俺だって童貞だったつうの」 「うん。もし、真が同意の上で童貞捨てるような状況があったら、俺、相手に何してたか分からないから、それでよかったと思う」 「あーそうですか」  一体俺達は何の話をしているんだとため息をつくと、背後から樹が抱きしめてくる。 「俺ずっと片思いしてきたからさ。今更、真以外の相手と番う気ないし。だから諦めて俺と結婚しよう」 「でも、俺」  ふいに樹が俺の腹に触れ、両手で守るように抱きしめる。 「俺の愛は意外と重いから、真一人で受け止めると疲れるかもしれない」  そう言って樹が俺の腹を撫でる。 「だからこの子がいてくれた方が、愛情を与える先が分散されて、ちょうどいいかもね」  何言ってんだよ。  馬鹿だな。  そう言って笑い飛ばすつもりだった。  でも俺の喉から漏れたのは嗚咽だった。  涙を零す俺を樹が強く抱きしめる。  初めてだった。  この子の存在を肯定するような言葉をくれた人は。 「ありがとう」  俺はすすり泣きながら切れ切れに伝えた。 「それって俺と結婚してくれるってことでいい」  俺は小さく頷いた。 「お前が嫌じゃなきゃ」 「嫌なわけないだろ。生きてきた中で一番今が幸せ」  そう言って樹は俺の上半身を起こすと、自分のポケットをごそごそ漁り、指輪を取り出した。  シャツで指輪を拭うと俺の左の薬指に嵌める。 「俺の貯金じゃ、まだそんなのしか買えなくて」  照れたように樹が笑う。  シンプルなシルバーのリングの中央には小さなダイヤが輝いていた。 「城ケ崎真さん、大切にするから俺と結婚してください」 「はい」  俺の目尻から零れた涙がダイヤモンドに落ち、きらりと輝いた。

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