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第32話

 今までの関係上、樹の腕の中にすっぽりと収まっているこの状況はかなり気恥ずかしかった。  でも嗅ぎなれた香りに包まれているうちに、俺の体からは自然と力が抜け、樹に持たれかかるようになっていた。  首元ですんっと鼻を動かすと、樹の肩がびくりと震える。  樹は俺からそっと体を離すと、俯いた。 「下に報告しに行こう」  そう言って立ち上がった樹の頬は真っ赤に染まっていた。 「樹」   俺の伸ばした手を避けるように樹は後ずさる。 「悪ぃ。真がプロポーズ受けてくれたのはすげえ嬉しいんだけど、ずっとお預けくらってたのがデフォだったから、ちょっと今、俺我慢が効かない。真の嫌がる様なことしたくないから、離れててもらっていい?」 「お預けって」  俺は笑いをかみ殺すと、樹の手を逃さないように両手でぎゅっと握った。  樹が目を見開く。 「俺、樹ならいいよ」  今度は俺の顔が赤くなる番だった。 「だって……お前、怖いだろ?」 「樹なら大丈夫だと思う。たぶん」  樹は困ったような表情で、俺を立ち上がらせた。  ぎゅっと自分の腕に中に俺を抱きこむ。 「そう言ってもらえてかなり嬉しいけど、今はやめとく。一度始めたら、俺止まらなそうだし」 「まさか」 「お前、10年以上も我慢してきた俺の恋心なめんなよ」 「別になめてないけど」  くすくすと笑う俺に樹は憮然とした表情を見せた。 「行くぞ」  樹が俺の手をひき、ドアノブに触れ、ピタリと立ち止まった。  くるりとこちらを振り向く。 「真。キスだけ、キスだけいいか?」  俺は頷いて目を閉じた。  ふにゅと優しく温かい感触を唇に感じる。  終わりかと思って薄目を開けた瞬間、樹はゆっくりと濡れた舌で俺の唇を辿り始めた。  俺の唇が柔らかく綻ぶと舌を入れ、俺の舌をぞろりと舐め上げた。 「んんっ」  つい声をだすと、俺の腰に絡みついている樹の腕に力がこもる。 「はあ」  お互いの湿った吐息が混ざり合う。

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