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第33話

 樹はキスを止めると、俺の額に一度口づけた。 「嫌じゃなかったか?」  俺は無言で、首を振った。  嫌どころか、またすぐにでも俺は樹の唇を味わいたくてしょうがなかった。  快感で崩れ落ちそうになる俺の腰を樹が逞しい腕で支えてくれる。  ほら、やっぱり。こんなにも優しい。  俺は背中をさすってくれる樹に身を任せながら、長い息を吐いた。  リビングに再び姿を現した俺達がしっかりと手を握りあっていたのを見て、両親たちは一様に安堵の表情を浮かべた。  樹が俺がプロポーズを受けてくれたと発表すると、父さんは涙ぐんだ。 「で、お願いなんだけど、当分俺も真の家に住んでもいい?」  樹の問いに俺は目を丸くした。 「えっ。樹が俺の家に住むの?」 「この近くに新居を構えたくても、今現在俺収入ないし。親から金借りて家買うのも違うと思うし。それに子供が産まれたら、真も両親のもとにいた方が育児しやすいだろう?」 「でも、本当にいいの?」  いくら樹がうちの両親と仲が良いとはいえ、いきなり同居させるのは若干気が引ける。 「ああ、俺も身重のお前が一人でいるよりその方が安心だし。いいですよね。唯人さん」 「もちろんだ。すぐに二階をリフォームして、子供部屋と樹の部屋を作ろう」 「金かけさせてすみません。リフォーム代も含めて働いたら必ずお返しします」  いつもとは異なる改まった口調で樹が言う。 「水臭いこというな。ずいぶんと前から俺は樹のこと、もう一人の息子みたいに思ってんだぜ」 「ありがとうございます」  唯パパの言葉に樹が頭を下げた。 「うちでもできる限り、色々協力させてください。樹がこちらに住むなら、当然生活費だってかかるだろうし」 「まあ、それはおいおい出世払いということで」   唯パパがにこにこと笑いながら言う。  俺の隣に座った父さんが俺の肩を抱き寄せる。 「真。本当に良かったな」  鼻をすすりながら言う父さんに、俺も涙ぐみながら頷いた。

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