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第34話

 俺の子供でもあるのだから、俺が一緒に行くのは当たり前だろと樹は病院の検診に付き添った。  産むことを告げた瞬間、医師は驚いたような表情を浮かべた。  俺はサイボーグみたいだった医師の初めて人間らしい表情を見たような気持になった。 「そうですか。では妊娠中に気を付ける行動や食事について冊子をお渡しいたしますので読んでいただいて。あと性行為ですが、激しくしなければ控える必要はありません」  さらりと言われて、俺は顔が真っ赤に染まり、樹は俺の手を握る手に力をこめた。    腹部エコー検査では胎児がいよいよ人間らしい形になってきていて、俺は不思議な気分で画面をじっと見つめていた。 「先生、これが手ですか?」 「そうですね」  樹は興味津々という感じで、医師に幾つも質問をぶつけ、最後にため息をついた。 「可愛いな」  ぼそりと樹が呟くのを聞いて、俺の口元が綻ぶ。 「性別についても分かりますが、お伝えしますか?」 「どうする?」 「俺は知りたいかな。樹は?」 「うん、俺も。教えてもらっていいですか?」 「男の子です」  医者の言葉に樹が目を輝かせた。 「男の子かあ」  樹は俺の腹にそっと手をやると微笑んだ。 「出てきたら、一緒にいっぱい遊ぼうな」  俺は樹の意外に子煩悩な一面を見て、くすりと笑った。    樹の希望で書店に寄った後、喫茶店でお茶をしてから帰ることにした。  俺のつわりは軽いのだが、何か食べていないと気分が悪くなることが多いので、クッキーとココアをオーダーした。  目の前の樹はブラックコーヒーを飲んでいる。 「これ、買いすぎじゃない?」  樹は書店で育児書を買い漁った。  小学生の児童心理学なんて本まで買っていて、気が早すぎると俺は呆れた。 「いいじゃん。服とかのベビー用品はうちと真の両親が大量に買ってるから、俺は知識で対抗してんの」  樹は目を伏せ、コーヒーカップに口を付ける。長いまつ毛が樹の目元に影を落とした。

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