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第35話

 確かにお互いの両親が競うように購入するせいで、まだ生まれてもいないのに、子供部屋には所狭しと衣服やら玩具が散乱していた。  俺は今朝も瑞樹さんに手編みの赤ちゃん用の靴下を渡されたばかりだった。 「初孫だし。15足も編んじゃった」  はにかんで言う瑞樹さんを見ると、流石にそんなにたくさんは要りませんとはとても言える雰囲気ではない。 「でも意外。樹って子供嫌いなイメージあったから。ほら前に映画館で騒ぐ子供を睨みつけてたじゃん」 「あれはマナーの問題だろ。子供っていうよりどっちかっていうと注意しない親にむかついたし。まあ、確かに誰の子供でも可愛いってわけじゃないけどな」  樹がテーブルの上の俺の手にそっと自分の掌を重ねた。 「正直、お前に産めって言った時も自分が父親になる覚悟とかはっきりできていたわけじゃない。無責任にだと思うだろうが、真にとって一番いい選択が産むことだと感じたから、そう言っただけだった。だけどさっきエコーの画像みたらさ。ちゃんといるんだもん。お前の中に」  樹と俺は見つめ合った。 「あれ見た瞬間、すげえ力がみなぎってきて。お前と子供の為なら、なんでもやってやるぞって。こんなに前向きな気持ちになるの俺、初めてかも」  そう言って樹は照れたように笑った。 「ありがとうな、真。俺を父親に選んでくれて」 「うん」  頷いた俺の両眼から涙が零れ落ちた。 「最近、俺、お前に泣かされてばっかりだ」  すぐに樹がハンカチをとりだして、俺の頬を拭う。 「悪かったな」 「悪くない。むしろいい気分だよ」  そう言って泣きながら微笑む俺に、樹も同じように微笑んだ。    ベッドの上で横になっている俺を背後から樹が抱きしめた。  俺の部屋のベッドをキングサイズに買い替えたおかげで、デカイ男二人が並んで寝てもびくともしない。  隣は子供部屋で、その隣が樹の書斎にリフォーム済みだった。  樹はあれからすぐうちに引っ越してきて、一緒に暮らしている。  そのおかげで俺は樹と籍を入れても、以前とほぼ変わらない生活を送れていた。  つわりが本格的に始まり、いくら俺は軽い方といっても、肉体的にきつい時期、慣れた実家で過ごせるのはありがたかった。

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