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第37話
「当たり前だ。お前と産まれてくる子供には窮屈な思いなんて俺が絶対にさせない。でも明日、俺とお前は違うクラスだし、俺の目が届かないところでお前が傷つけられるかもしれないと思うと居ても立っても居られないんだよ」
ぎゅっと抱きしめられ、俺は樹の背中をぽんぽんと叩いた。
「そんなに俺、弱くないよ」
「分かってる。お前が強くても弱くても関係ないんだ。ただ真に少しでも傷ついて欲しくない」
樹が顔を上げ、心配気な表情で俺を見つめる。
「どうしても行くのか?」
「うん。ごめん」
「謝るなよ。いいか?もし嫌な思いをしたら式の途中でもいい。連絡をすぐに寄こせ」
「分かった」
樹は息を吐くと、まるで俺の無事を確認するみたいにもう一度抱きしめた。
樹に気を使わせてしまうのは申し訳なかったけれど、卒業式に出席するという俺の決意は固かった。
翌日は快晴だった。
お腹の子も大人しくしているのか、つわりの症状も軽い。
「空気読んでくれて、ありがとな」
俺は自分のまだ薄い腹を撫でた。
久しぶりに制服に袖を通した俺は樹と一緒に朝食を食べて、玄関をでた。
樹が俺に手を差し伸べる。
「一人で歩けるよ」
「俺が繋ぎたいんだよ」
樹は俺の手を掴むと、指を絡めた。
俺のカバンも奪うと、樹は驚くほどゆっくりとした足取りで歩き始めた。
妊娠してから樹の俺に対する過保護は酷くなる一方だった。
俺は苦笑しつつ、そんな樹に寄りそった。
下駄箱から、ちらちらとこちらを伺う視線をいくつも感じたが、樹が上手く隠してくれた。
「メール、こまめに送るから」
そう言って樹は俺に荷物を手渡すと、自分のクラスにむかった。
俺は深呼吸すると、引き戸を開けた。
一斉にクラスメイトの視線が集中し、息を飲む。
「久しぶり」
クラスメイトの高橋が、駆け寄ってきた。
「ああ。メールありがとな」
「別に、あれくらい。それより体調は平気か?」
「うん、まあ」
クラスがしんと静まり返っているのが分かる。皆、俺と高橋の会話に耳をそばだてているようで居心地が悪かった。
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