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第40話
「アンナっ」
蔵元が教室の入口に立っていた。
染崎に駆け寄るとその肩を抱く
「城ケ崎と話はついてるって言っただろ。もう彼と俺は何の関わりもないんだよ」
「いくら関係ないって言ったって、この人のお腹の中には拓哉の子供がいるじゃない。そんなの私許せない」
「いくら遺伝子上俺の子供だとしても、アンナ以外が産む子供なんて、俺には他人としか思えないよ。城ケ崎だって、そのことはちゃんと分かってるはずだ」
言い聞かせるように蔵元が染崎の腕をさする。
蔵元は平気でそんなこと言えるんだな。
ほんの欠片ほど残っていた蔵元への好意が俺の中から完全に消えた瞬間だった。
「本当に?本当に何も関係ないの?」
染崎が蔵元に問う。
「ああ、城ケ崎と俺は全くの他人だ。これからずっとその関係性は変わらないよ」
「そうだ。真とお前は他人だ。腹の中の子供も含めてな。だから他人にあれこれ口出しされるのは我慢ならないんだよ」
背後から聞こえる声に振り返ると、息を切らせた樹が立っていた。
「遅くなって悪い。担任に職員室に呼ばれてた」
樹は俺の背後にピタリと寄り添うと、片方の手を俺の肩に置き、もう片方を俺の腹に守るように滑らせた。
「蔵元。こいつに接触することは禁止されているだろう。何か話したいことがあれば弁護士を通す様にと」
蔵元が樹を睨みつける。
「もとはと言えば、城ケ崎が俺の婚約者を挑発したのが悪いんだろ」
「なっ、俺、そんなこと」
樹が俺の肩に置いた手でそっと俺の唇に触れた。硬い親指の腹で俺の下唇をなぞり、耳元に唇を寄せる。
「興奮するな。体に良くない」
樹は俺に微笑みかけたのとは真逆の、凍りつくような視線を蔵元にむけた。
「どんな理由であれ、お前が城ケ崎家との約束事を破ったのは事実だ。あとから弁護士を通じて謝罪を求めることにする」
蔵元が怯んだ表情を見せる。
「それとももう一度痛い思いをした方が、お前みたいなバカには分かりやすいか?今度は鼻の骨じゃなく、顎の骨を砕いてやるよ」
ぞっとするほど低い声で樹が言う。
「成澤。調子にのるなよ」
蔵元がこちらを睨みつける。
クッと笑った樹が俺から離れ、蔵元の方に歩みを進める。
また殴り合いになりそうな予感に俺はとっさに樹の腕を掴んだ。
「やめろよ。もうすぐ卒業式だろ」
「こんな目にあわされてまで、こいつのことを庇うのかよっ」
俺にむかって樹が声を荒らげる。
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