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第42話

 俺のうちで樹が同居する生活が始まった。  樹を大学に送り出したあと、特に予定もない俺は母親から料理を教わったり、瑞樹さんから裁縫をならったりして一日を過ごしていた。  ただ掃除や洗濯は通いの家政婦さんがやってくれるのでほとんどの時間寝ているのが主な俺の仕事という家猫みたいな生活を送っていた。  樹は大学生になっても、コンパや飲み会など一切参加せずに授業が終わると毎日肩で息をするほどの勢いで玄関を開けて、帰って来た。  俺達の寝室となった部屋でベッドに寝転んで本を読む樹に近寄る。  俺がベッドに腰かけると、風呂上がりの俺を見て、樹が上半身を起こした。 「髪、ちゃんと乾かさないと風邪ひくぞ」  樹は俺の手を取って立ち上がると、壁際に置かれた真っ白な机と椅子のセットの前までいき、俺を椅子に座らせ、ドライヤーを手に取った。  樹がドライヤーの温風を俺の頭にあてる。  丁寧な手つきが気持ちよくて、俺は自然と目を閉じていた。    樹の性格が最近別人みたいに変わったと感じるのは俺の気のせいではないだろう。  俺から見た以前の樹はどこかぼんやりとして、子供っぽいと感じるところも多かった。  しかし最近は俺とお腹の中の子供の事を一番に考え、行動しているのがよく分かる。  食事の時、俺が座ろうとすると必ず背中にクッションを差し込んでくれる。  買い物に行くと荷物は全て持ってくれる。出かけるとなると、樹は俺のためにハーブティーを入れた魔法瓶まで持ち歩いていた。  子供の父親としても旦那としても満点以上の行動だが、俺は樹が本来の自分を殺して無理をしているんじゃないかと気になっていた。 「はい、おしまい。真、温かいお茶飲むか?寝る前に飲むと不眠を改善するっていう妊婦が飲んでも平気なお茶を母さんから貰って」  俺はお茶を淹れに行こうとする樹の手首を掴んだ。 「樹。ちょっと話がしたい」  樹は一瞬目を見開いたが、直ぐに頷き、クーラーの冷えから守るために俺の膝にブランケットを広げた。

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