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第43話

 樹は椅子を持ってくると、俺の隣に座る。  俺の手に重ねるように樹が上からぎゅっと握った。 「どうした?」 「樹。お前今、ちゃんと大学生活楽しんでるか?」  俺は俯いた。 「周りはみんな授業後に飲み会だとか行くんだろ?徹夜でカラオケしたりさ。俺、大学生じゃないけどそのくらい知ってるよ」  俺は下唇を噛み、眉を寄せた。 「だけどお前は大学に入学してから三ヵ月も経つのに、全然そういうのないじゃん。毎日走って帰って来てさ」 「真。学生の本分は勉強だぞ」  あまりに樹らしくない台詞に俺は顔を上げた。  にやりと笑う樹と目が合う。 「俺、本気で言ってるのに。せっかく一度きりの大学生活なんだぜ。もっと遊んで楽しまないと後悔するんじゃないか」  ぶすっと俺が言うと樹が柔らかく微笑んだ。  こんな笑みも樹は今まで浮かべたことはなかった。その表情は樹を大人びて見せた。  ふいに樹が俺を椅子から抱き上げる。 「うわ」  俺をベッドに降ろすと、樹は俺に丁寧に夏用の薄い毛布を掛ける。  樹は俺の隣に寝転び、こちらをじっと見つめた。 「真。俺ちゃんと楽しいよ」  樹が俺の髪を撫でる。 「俺、小さい頃から真のことが好きで、もっと触りたい、もっと傍に居たいってずっと思ってきたんだ。その夢が叶って楽しくないわけないだろ?大学生らしく飲み歩けなんて言って、俺から今の生活を奪わないでくれよ」 「でも、じゃあなんで樹は」  途中まで言いかけて、俺ははっと口を閉じた。 「真。ちゃんと言って」  真剣な瞳で樹がこちらを見る。 「いや、その、樹……俺に触りたいっていうけど、実際はその、何もしてこないだろ?」  樹と俺は籍を入れて、戸籍上は夫夫となったが、キス以上のことは未だにしていなかった。

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