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第44話

 妊娠してから性欲というものが全くなくなってしまった俺はともかく、樹はまだ若くそういう欲求もあるだろうが、全く俺にそれを悟らせない。  入籍する前は我慢が辛いなんて言ってたくせに、同じベッドで寝ても樹は何にもしてこないし。別にどうしてもして欲しいわけじゃないけど、もしかして俺のこと愛してるって言ったのは肉親に対する愛情的な。  そこまでぐるぐると考えて俺は表情を暗くした。  樹はそんな俺の頬をさらりと撫でる。 「触りたいよ」  樹の言葉に顔を上げると、真っ黒な虹彩とかちあった。  怖いくらい真剣な表情で樹がこちらを見つめている。 「いつだって、真に触れたいし、キスしたい。もちろんそれ以上のことも」 「じゃあ、何で?」 「真は?今、本当に俺に抱かれたいの?」 「別にしてもいいけど」  俺の答えを聞いた樹が苦笑する。 「俺一人盛り上がって真の気持ち無視するような真似したくないんだよ。してもいいじゃなくて、真が本当に俺としたいっていう気持ちになったらしよう」 「もし俺が一生そういう気持ちにならなかったら?」  妊娠期間はヒートも来ないし、性欲も薄くなると医者が言っていた。しかし、子供を産んでも、この気持ちが変わらなかったら。  樹も俺も不幸になってしまう。  俺の顔は自然と青ざめた。  樹がそんな俺の手を握り、指を絡める。 「真は俺に触られるの嫌?」  俺はかぶりを振ると、樹に身を寄せた。 「嫌じゃない。お前とくっついていると安心する」 「俺的には安心するよりドキドキして欲しいんだけど」 「ごめん」 「冗談だよ」  樹が声をたてて笑う。 「真が精神的にも身体的にも安定した状態で子供を産んで欲しいって言うのが俺の今の唯一の望み。だから安心してもらっていいんだよ。ドキドキは子供を産んでからにしよう」 「でも、それじゃあ樹ばっかり我慢している」 「そんなことないって」  樹が繋いだ手に力をこめる。  俺は申し訳ない気持ちで樹を見つめた。

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