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第46話

目覚めると隣に樹の姿はなかった。  時計はまだ真夜中を指している。  立ち上がり扉を開けると、子供部屋の隣、書斎から灯りが漏れていた。  書斎の扉を開けると、机に向かっている樹と目が合う。 「ごめん。邪魔した?」 「いや、大丈夫」  手招きされてふらふらと近づくと、腰を抱かれ、樹の膝の上に座らされた。  机の上には難解そうな問題集が開かれている。 「テスト勉強?」 「いや、他大に編入しようかって考えててさ」  俺は目を見開いた。 「入学したばっかりなのに?」 「俺、大学は真と同じところにいくってだけのかなり不純な動機で決めたけど、唯人さんの会社受けるならもうちょっと学歴あったほうがいいかなって思いなおしてさ」 「樹、唯パパの会社入るんだ」 「うん。前からできたら入社したいって思ってた。もちろんコネとかじゃなく、ちゃんと入社試験受けるから、どうなるか分からないけど。あそこは新卒も一流大学で、留学経験のある奴ばっかり採用しているから、編入できたとしてもなかなか厳しいとは思うけど」  俺は樹の二の腕を掴んだ。 「もし樹が留学したいなら俺、応援するよ」  樹はふっと笑うと、俺の手を取り、指先に口づけた。 「俺がそんなの無理。お前と子供と離れたくないもん」  そう言われてしまうとそれ以上何も言えなかった。  せめてと俺は空いている手で樹の頭を撫でた。 「大学の編入試験上手くいくといいな」 「うん」   頭を撫でながら、こんなに頑張っている樹のために俺は何ができるだろうと考えた。  街路樹が紅葉する季節となった。  俺の腹は風船のように膨らみ、歩くだけですぐに疲れてしまうようになった。  樹は無事に編入試験に受かり、難関大学の一年生となった。  俺は父さんと一緒に樹のために、ケーキを焼き、ご馳走を作った。

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