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第47話
「それでは樹の大学、合格を祝って」
唯パパと父さん、樹と俺はグラスを合せた。
「二度目なのにこんなに祝ってもらって、恥ずかしいな」
樹が頭をかく。
樹と俺はオレンジジュース、父さんと唯パパは白ワインを飲んでいた。
「うん、でも本当に良かった」
そう言った途端に俺の目尻から雫が零れた。
俺は妊娠してから、感情の起伏が激しくなった。妊婦はそういうこともあると分かってはいたが、こんなにいきなり泣きだしたのは初めてだった。
樹はぎょっとすると、俺の方に体を完全に向け、手近にあったティッシュペーパーを二、三枚抜き取った。
それで俺の頬を拭う。
「どうした?」
心配そうな表情で樹が俺を見つめる。樹の黒い瞳に映った自分を見つめながら、俺は首を振った。
「ごめん。……ただ本当に良かったなって。樹はいつも自分じゃなく俺の気持ちを尊重してくれるから。一つくらい樹の夢がちゃんと叶って欲しいってずっと思ってたから」
しゃくりあげながら言うと、樹が苦笑した気配があった。
恥ずかしいと思いながらも涙を止めることができなかった。
泣いている俺の手を取り、樹が爪の先に口づける。
「言ったろ?俺の夢はお前の傍で一生暮らすことだって」
「分かってる。でも。それでも」
「俺がお前と暮らす毎日がどれだけ楽しくて、どれだけ大切に思っているのか俺の頭と心を開いてお前に見せてやりたいよ」
樹は微笑むと俺を自らの膝の上に抱き上げた。体重の増えた俺を樹は軽々と抱く。
「真。俺を幸せにしてくれてありがとう」
そう樹が言った瞬間、泣き声を上げたのは俺じゃなかった。
向かいを見ると、父さんが目と鼻のあたまを真っ赤にしながら、自分の涙を乱暴に手の甲で拭っていた。
「本当に良かった。俺、真に子供ができたって聞いた時から、真の将来がずっと不安で」
唯パパが父さんを抱き寄せると、こめかみに唇を落とした。
「じゃあ、これで不安は払拭されたろ。これからは俺ほどではないけど、頼りがいのある男がいつでも真の傍についているんだから」
唯パパはそう言うとあやすように、父さんを膝に乗せる。
俺と父さんは泣きじゃくり、頭上で唯パパと樹がアイコンタクトを取りながら苦笑しているのに気づきもしなかった。
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