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第49話
その瞬間、ふいに下半身に違和感を覚え、俯くと床に水たまりが出来ていた。
「父さん」
俺は顔を上げた。
「破水してる」
父さんが息を飲んだ。
タクシーで病院に迎い、医者に診察してもらうと、もう既に子宮から赤ん坊が頭を覗かせているとのことだった。
急いで分娩室に入り何度かいきむと、あっという間に赤子の泣き声が耳に届いた。
「産まれました。元気な男の子ですよ」
俺は安堵の息を吐いた。
目の前に大きな声で泣く赤ちゃんを差し出される。
俺はその途端、表情を強ばらせた。
俺の産んだ赤ん坊は早産のため、標準より体重が少なく、集中治療室に入ることになった。決まった時間に面会はできるが、同じ病室で過ごすことは許されない。
個室の病室で真っ白な天井を見つめていると、扉がノックされた。入ってきたのは父さんだった。
「気分はどうだ?」
「悪くないよ」
「樹に連絡したから、もうすぐ来るはずだ。唯人も今日は仕事を切り上げてこっちに向かうって」
「そう」
「真」
父さんから何か言いたいような、躊躇うようなそんな雰囲気を感じた。
「ごめん。やっぱりちょっと疲れているみたい。休みたいから一人にしてくれる?」
父さんは口を開いたが、何も言わずに閉じた。
そのまま病室から出ていく。
俺は先ほど初めて赤ん坊と対面した時のことをずっと考えていた。
色白の肌、産まれたばかりなのにふっさりとした髪は金色をしていた。
赤ん坊はふいに泣き止むと、閉じていた瞼を開きまじまじと俺を見つめた。
その瞳は澄み切った青空の色をしていて……。
俺は頭を大きく振った。
遺伝子的には蔵元の子供なのだから、こうなることもある程度は予想していた。しかし産まれた子供は予想以上に蔵元に似ていた。
あの子を見た時、樹はどう感じるんだろう。
樹はきっと何も気にしていないふりをしてくれる。
でも。
本音は。
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