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第51話
「唯希は世界で一番可愛いなあ」
でれでれと目尻を下げた唯パパが自分の膝に唯希を乗せ、言う。
「お前、それ、真が産まれた時も言ってたぞ」
呆れ顔の父さんが唯パパの前にコーヒーカップを置いた。
「なんだよ、和希妬いてんのか。大丈夫。俺の中でお前の可愛さは殿堂入りだから」
「はいはい。ありがとよ」
唯希が唯パパのカップに手を伸ばそうとする。
「ダメだよ。これはあちちだよ」
唯パパが唯希の手を遮ると、途端に唯希の表情が険しくなった。
「ふえ、ふぇ」
リビングに唯希のギャン泣きが響き渡る。
樹はサッと唯パパの膝から唯希を抱き上げると、あやし始めた。
あっという間に唯希の機嫌は直り、笑顔で樹の頬を叩いている。
「樹、すごいなあ」
父さんが感心しながら、唯希の頭を撫でる。
「唯希は誰よりも樹が好きなんだよ。俺なんかよりずっと懐いてる」
「同じアルファ同士で惹かれ合うものがあるのかもね」
父さんの言葉に俺も頷いた。
「夜泣きしてても、樹が抱くと嘘みたいにすぐ寝るし。助かってはいるんだけど、俺がその前に抱っこしてあやした三時間は、なんだったんだって」
俺はため息をつくとお代わりを淹れようと自分のコップを持って立ちあがった。
ふいに全身が熱くなり、持っていたコップが落下する。
ガシャンと大きな音がし、コップの破片が散る。
「あっ、樹。俺」
ぶわりと甘い香りが俺の全身の毛穴から発せられたのが分かった。
父さんが樹の腕から唯希を奪う。
「樹、早く真を二階に連れて行って。唯希のことはヒートが落ち着くまで俺達で面倒見るから、心配しなくていい」
「すみません」
樹は俺に大股で近づくと、体を抱き上げた。
樹の匂いを嗅いだ瞬間、俺の頭は真っ白になり、下半身がぬるつくのが分かった。
「あう」
言葉にならない喘ぎをもらし、樹の唇を求めようとしたが、樹は前を向いていた。
体の熱が辛いのに構ってくれない樹に腹が立ち、思い切り顎に噛みついた。
「痛っ。分かったから、ちょっと待ってろ」
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