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第57話

 俺の眦から、涙が一滴零れた。   「ごめん。ヒートで感情的になってるかも」 「真」  樹が慌てて俺を抱きよせ、背中を撫でる。 「ごめん。言い方が悪かったな。俺は当分、お前との間に子供は作らないほうがいいって考えてる」  それはやはり俺との子供が欲しくないという意味じゃないか。  俺の目からまた新たな涙が零れる。 「ごめん。だからそういうことじゃなくて、ええっと」  樹が親指で俺の涙を拭う。 「俺さ、まだ就職もしてなくて、家も真の家に住まわせてもらっているのに、家賃すら自分で払えてないじゃん」 「それは樹は学生だから仕方ない」 「うん。そこは出世払いで勘弁してもらうってちゃんと決まったけど、こんな状態で更に子供増やして、真の両親やうちの両親の金銭的援助に頼って生活するのってどうしても俺のプライドが許せなくてさ」  樹はふいに俺の左手を持ち上げると、薬指に嵌っている指輪にキスをした。 「ここにもうちょっと大きなダイヤが買えるようになるまで、二人目の子供はやめておかないか?俺の変な拘りに真まで付き合わせて悪いんだけどさ」  俺は顔を真っ赤にして首を振った。  確かに今二人目を妊娠してまったら俺の大学の休学期間も伸びてしまうし、樹の言うように金銭的には親の援助に頼りっきりで生活することになる。  俺はそんなことも考えられず、ただ樹に子供が欲しくないと言われて悲しくなってしまった。  なんて考え無しだったんだろう。 「樹、俺の方こそごめん。そういうことまで頭まわってなくて」 「いや、俺の言い方が悪かったんだよ。ごめんな」  樹はそう言うと、お詫びのしるしなのか、寝ている俺の顔中にキスの雨を降らせた。  俺が笑い声を上げると、背後からぎゅうと抱きしめる。 「真。しよ」  尻に熱く濡れたモノをあてられ、俺の喉が渇く。 「でも、唯希が」  ヒートが始まってから三日間、唯希のことは父さん達に預けっぱなしで、俺は一度も顔を見れていなかった。 「唯希なら大丈夫。さっき真が寝ている間にリビングに行ったらうちの両親と真の両親に代わる代わる抱っこされて、ご機嫌に笑ってたよ」 「そっか。唯希が元気なのは嬉しいんだけど、俺と三日も顔を合わせていないのに寂しがってないのはちょっと複雑かも」  落ち込む俺に樹がくすりと笑う。 「この部屋を一歩出たら、真の一番大事なのは唯希だ。それでいい。でもヒートの間だけ、この部屋にいる間だけはお互いのことだけを一番に考えないか?」  樹の提案に俺はこくりと頷いた。 「その方がいいよね。真、俺に抱きしめられただけで、ここ、こんなになってるもん」  樹の手に握られた俺の屹立はもう既に蜜を零していた。 「樹」  俺は熱い息を零しながら名を呼ぶ。  直ぐに樹の逞しい体がのしかかってきて、俺はその首に両腕を絡めた。

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