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第63話

 三人で夕飯の食卓を囲んでいると唐突に唯希が言った。 「ねえ、俺、弟が欲しい」  樹は味噌汁を吹きだし、俺は目を見開いた。 「唯希。どうして急にそんなこと」 「今日行った陽太の家で陽太の弟の赤ちゃんが寝てたんだ。すごく可愛くて、うちにもいたらいいなって」 唯希が曇りのない瞳でこちらを見る。 「ねえ、俺も弟が欲しい」  子供部唯希を寝かしつけ、俺達の寝室の扉を開けた。  ベッドに横になる樹の隣に寝そべる。  樹はすぐに俺の頭を抱え、額にキスを落とした。 「唯希の発言びっくりしたな」  樹の言葉に俺は頷き、小さく笑った。 「弟が欲しいって。妹の可能性もあるのにその場合はいいのかな」  樹も吹き出す。 「なあ、そろそろ二人目つくらない?」  樹も仕事にようやく慣れてきて、入社直後のように帰りが深夜になることは少なくなった。  唯希も大きくなって手がかからなくなってきた。俺は唯希が爆弾発言をする前からそろそろいいかと考えていたのだ。  しかし樹は表情を曇らせた。 「あっ、まだ早いっていうなら、もうちょっと先でも」 「いや」  樹が俺を抱きしめる。 「作ろうか、二人目」 「うん」  俺は樹の胸元で大きく頷いた。  だからそれを告げる樹がどんなに苦い表情を浮かべているか、知る由もなかった。  そろそろ俺のヒートという時期に合わせて、樹は休暇をとった。  樹はいつも俺の症状の酷いヒートの初め二日間だけを休み、後は出社していたが、今回は一週間まるまる休みを貰った。  仕事が落ち着いている時期ということもあり、上司は簡単に了承してくれたらしい。 「新婚旅行にでも行くのか?」  樹はそう上司に尋ねられたと笑って言った。

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