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第67話
二人目の妊娠中は唯希の時と比べて、戸惑うことは少なかった。
体調が悪くて動く気になれない日は、唯希が代わりに簡単な家事をしてくれた。そんな時、唯希の成長を感じて、このままいい兄になるのかと思うと感慨深い。
立ち会い出産を希望していた樹と、また予定日よりも早く産まれたらどうしようねなどと話していたが、そんな心配は全くなかった。
出産予定日当日に産まれたのは、アルファの男の子だった。
髪は樹そっくりの真っ黒で、瞳は俺譲りの茶色だった。
病室のベビーベッドの中で眠っている赤子の頬に恐々触れると、唯希がため息をついた。
「可愛いねえ」
隣のベッドに座っていた俺は頷き、微笑んだ。俺も赤ん坊も体調に問題はなく、明日にも退院できる予定だった。
「うん、本当にな」
顔を上げ、樹を見つめると、どこか冴えない表情をしていた。
出産自体は短時間で済んだものの、俺の手を痛いくらい握りしめ、額に汗を浮かべながら、ずっと傍に付き添ってくれた樹は疲れてしまったのかもしれない。
「樹?」
伺うように名を呼ぶと、樹は夢からさめたような顔をした。
「ああ、可愛い子だな」
その言葉を額面通りには受け取れないほど、樹の言い方は素っ気ない。
「ねえ、この子の名前は?」
樹の様子に全く気付いていない唯希があどけなく問いかける。
「まだこの子には名前がないんだよ」
樹が答え、唯希に微笑みかける。
「ええっ、そんなの可哀想」
顔を曇らせた唯希を樹が抱き上げた。
「それじゃあ唯希はこの子の名前は何がいいと思う?」
「うーん。フユ。フユがいい」
「ふゆ?」
俺の問いに唯希が大きく頷く。
「うん。ゆきの弟だからフユ。いいでしょ?」
「そんな連想ゲームじゃないんだから」
苦笑する俺の傍で樹はどこかぼんやりとした表情で呟いた。
「ふゆか……。うん、良い名前だな。そうしよう」
「ちょ、樹、本気かよ」
焦る俺と正反対に樹は落ち着きはらって頷いた。
「ああ。唯希、お前が名付けたふゆと今日から仲良くするんだぞ」
「うんっ。僕、良いお兄ちゃんになる」
元気いっぱい返事をする唯希を抱き上げ高い高いをする樹を、俺は何ともいえない気持ちで見つめていた。
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