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第72話
「とにかく一度きちんと時間をとって、唯希と話そう。冬はうちか真の両親に預けてさ」
「分かった」
俺も布団に入ったが、色々と考えてしまい眠れなかった。
「真」
そんな俺に気付いた樹が声をかける。
「大丈夫。唯希のことは俺が何とかするから」
「でも原因もはっきりしないんじゃ」
「悩んでいても解決する問題じゃないだろ?」
その時、リビングから冬の泣き声が聞こえた。
立ち上がろうとする俺を樹が制する。
「いい、俺が行く。真、お前は考えすぎないで早く寝ろ」
樹はそう言い残すと寝室から出て行った。
俺はぼすんと布団に横たわった。
樹に言われた通り目を閉じ、眠ろうとしたが、眠りはなかなか訪れなかった。
翌日、唯希の学校から呼びだしをうけた。
唯希がクラスメイトと口論になり、相手を突き飛ばし怪我をさせたという。
俺は小学校まで全力疾走し、教室で怪我をさせた相手とその親に平謝りした。
「怪我っていってもこんなものですから。お気になさらないでください」
膝小僧に絆創膏一つ付けてぶすりとしている男の子は、先日うちに遊びに来た子の一人だった。
むこうの母親からのありがたい言葉に涙ぐみそうになりながら、俺は更に頭を下げた。
「いえっ。怪我の程度は関係ありません。暴力は絶対にいけないのに、唯希が本当に申し訳ありませんでした。ほら、唯希ちゃんと謝れ」
「ごめんなさい」
小さな声で唯希が謝罪する。
「それにしても喧嘩の原因はなんなの?」
むこうの母親が息子に尋ねるが、男の子は俯き無言だった。
「唯希、一体なんで言い争ったんだ?」
唯希も同様に何も言わない。
困り果てた俺とむこうの母親は視線を合わせ、ため息をついた。
「とにかく今回は大きな怪我にはならなくてよかったです。でも唯希くん、暴力は絶対にだめよ」
大学をでたばかりだという女性の担任教師に言われ、唯希はこくりと頷いた。
それで一件落着したとばかりの笑顔の担任に送り出され、俺達は教室を後にした。
学校の前でもう一度むこうの親子に謝罪し、俺と唯希は帰宅した。
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