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第74話
樹は顔色一つ変えないで、唯希の頭を撫でた。
「唯希は父さんの子供に決まってるだろ?何でそんなこと言うんだ?」
「だって政義が冬は父さんや母さんに似てるのに、僕はちっとも似てないって」
「だから政義くんのことを突き飛ばしたのか?」
唯希が頷く。
「僕は拾われた子供だって。そこら辺に落ちてたんだって。そう言われた」
唯希の顔がくしゃりと歪む。
唯希の言葉を聞き、俺は思わず泣きだしそうになった。
「そんな酷い嘘を信じるなんて馬鹿だなあ。唯希は間違いなく父さんの子供なのに。そんなに心配なら今度戸籍を確認したらいい」
「コセキ?」
唯希が首を傾げる。
「唯希の父さんと母さんが誰かって書いてある正式な国に認められた書類だよ。唯希の父親のところにはきちんと俺の名前が書いてあるし、母親の欄には真の名前がある」
「そうなの?」
唯希が恐々尋ねるのを、樹が自信を持って頷く。
「ああ。今度取り寄せて見せてやるよ」
樹が唯希を抱いたまま、子供部屋に入って行く。
そして扉が閉められた。
俺は心配でリビングをうろうろと歩き回った。中では一体何が起こっているんだろう。
一時間ほど経って、樹だけが部屋から出てきた。
「唯希は泣きつかれて眠ったよ」
「そうか」
ほっと息を吐く。
「こうなるかもしれないと思ったことはあった」
樹はそう呟くと、冷蔵庫から水のペットボトルを取り出し、そのまま煽る。
「だから二人目をつくるの、渋っていたんだ」
樹は濡れた口の周りを手の甲で拭うと疲れた表情で頷いた。
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