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第75話
「でもあんなこと言ってよかったのか?唯希のこと、冬よりも可愛いだなんて」
「冬はこの先の人生で俺達が本当の両親かと疑うことなんて一度もないだろ。でも唯希はこれから何度でもそんな経験をするんだぞ。一番と言うくらいじゃ足りない。俺は唯希に俺達から愛されているという実感を与えてやりたいんだ」
「樹」
「真。今日は冬をそのまま母さんに預けて、唯希が起きたら、ファミレスへ連れて行ってやろうぜ。ハンバーグでもパフェでも唯希の好きな物を食べさせよう。あいつのことを思い切り甘やかしてやりたいんだ」
微笑んでそう言う樹に、俺は泣きだしそうになりながら頷いた。
翌日から樹は唯希のことを最優先させた。
おかげで冬の育児は俺の負担が増えたが、唯希の情緒は少しづつ落ち着くようになっていった。
唯希はまた冬に話しかけるようになった。
そんななか、唯希が9歳の誕生日の迎える日。
いつもは大人しい冬が朝から泣き止まない。
体が熱いと思い熱を測ると、38度を超えていた。
赤ん坊は高熱をだしやすいとはいえ、心配になった俺は冬を病院に連れて行きたいから車を運転してくれと樹に頼んだ。
その日は平日だったが、唯希の誕生日の為に樹は有休を取得していた。
「ああ、なら母さんに来てもらって、病院にも連れていってもらおう」
「えっ」
俺は唖然としながら樹を見つめた。
「だって今日は唯希の誕生日だろ。一緒におもちゃを買いに行って外食する予定だったじゃないか」
「でも、そうだけど」
俺は腕の中でぐずる冬を見つめて途方に暮れた。
「父さん、冬の具合が悪いの?」
心配気な表情で唯希が問う。
「ああ。少し熱があるみたいだ。でも瑞樹ばあばに病院に連れていってもらうから心配いらないよ。さあ、おもちゃを買いに行こう」
樹は唯希の頭を撫でると、俺の腕から冬を攫った。
火が付いたように泣く冬をベビーベットに寝かせ、唯希の手をとる。
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