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第77話

 唯希は小学5年生、冬は幼稚園児となった。  唯希はあれから問題もなく、落ち着いてみえた。それに比べて冬はわんぱくで滑り台の一番上から飛び降りたり、赤信号でも気にせず道路を渡り始めたりとこちらがひやひやすることの連続だった。  そんな冬だったが、唯希の言うことだけは素直に聞いた。冬は唯希のことを「にいたん」と呼んで、後をついてまわった。 親として恥ずかしいが、俺が叱るより、唯希が言い聞かせるほうが冬にとってはずっと効果があった。  そんな頼りになる唯希と俺は土砂降りの中、二人でスーパーに買い物に出かけていた。  最近唯希はホットケーキ作りに夢中だった。  きっかけは冬の絵本だった。  その絵本は二匹のネズミが協力して大きくてふわふわなホットケーキを焼きあげるお話で、それを初めて読んだ冬は目を輝かせた。 「これ食べたい」  冬が絵本の中のホットケーキを指さしながら言う。  冬のお願いにお菓子作りが苦手な俺は「そのうちな」と逃げ腰だったが、唯希は「じゃあ、作ろう」と簡単に請け負った。  それから俺達は「ホットケーキ ふわふわ 焼く方法」なんて検索しながら、絵本にでてくるようなホットケーキを目指し、日々焼きまくっていた。  それなりに上手く焼けるようになったのだが、唯希はまだホットケーキの仕上がりに満足していなかった。  本日は祝日だったが、もちろん唯希は午前中からホットケーキを焼きまくり、ついには家にあるホットケーキミックス全てを使い切ってしまった。  結果、土砂降りの中二人で買い出しに行くことになった。  ホットケーキを食べさせられ続けている樹も流石に飽きてきたようで、買い物に行くなら何かしょっぱい物も一緒に買ってきてと頼まれた。  玄関先でお留守番を言い渡された冬は樹の腕の中で泣きべそを浮かべていた。  車検中で車がないせいで、冬と樹には留守番を頼んだが、早く帰らなければ冬がにいたんを恋しがり本格的に泣き始めてしまうだろう。

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