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第78話

 俺とほぼ身長の変わらない唯希もそれが分かっているからか、隣で足を速めた。  スーパーでの買い物を終えた俺の持っている袋の中には、色々な種類のホットケーキミックスが詰め込まれていた。 「今度こそ成功するといいな」  俺の言葉に唯希は大きく頷いた。  実は俺もホットケーキには飽きていたが、調理中の唯希の真剣な表情と冬の期待のこもった眼差しを見る度に「もう止めよう」とは言いだせないでいる。  俺は苦手だけど、唯希はお菓子作りの才能があるのかもな。  今度父さんに教えてもらって、唯希と本格的なデコレーションケーキ作りをしてみるのもいいかもしれない。  そんな親馬鹿な想いを抱きながら、マンションの前に着いた。  マンションのエントランスには簡単に雑談できるスペースがあって、俺は一旦そこにあるテーブルに荷物を置いた。 「濡れたなあ。俺も唯希みたいにレインコートを着ていけばよかったよ」  大きめの傘をさしていったが、俺の履いているジーンズは色が変わるくらい濡れて、スニーカーは中まで水が浸透していた。  唯希にはレインコートに傘、長靴と完全防備をさせたからそんなことはない様子だ。 「城ケ崎」  唯希がレインコートを脱ぐのを見守っていた俺の背中に声がかけられる。  振り返ると、金色の髪が視界をよぎり、俺は愕然とした。  蔵元だった。  久々に会う蔵元は、頬はこけ、顔色も悪かった。  あんな綺麗だと思っていた空色の瞳も、どことなく濁って見える。  けれどやはりそうはなっていても、目の前の愛しい存在と蔵元はよく似ていた。

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