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第79話

 俺はハッとすると唯希に荷物を押しつけ、蔵元を隠す様に唯希の前に立ち塞がった。 「唯希。これ、持って先に帰って。俺はちょっとこの人と話があるから」 「でも」  唯希は蔵元にちらちらと視線をやりながら、何か言いたげだった。  唯希が気にするのも無理はない。  それは分かっていたが、この場で真実を唯希に明かすことはできなかった。 「ああ、君が唯希だろう?初めまして」  焦るこちらの気も知らないで、あろうことか蔵元が唯希に話しかけた。  唯希が眉を寄せる。 「おじさん誰?」 「俺かい?俺は」 「唯希、さっきアイスクリームも買ったろう?溶けちゃうから早く持って帰って」  俺が叫ぶように言うと、唯希は目を見開いた。  唯希は頷くと、荷物を持ちこちらを振り返りもせずにエレベーターに走っていった。 「無粋だなあ。せっかくの親子の対面を邪魔するなんて」  自分のこめかみに青筋がたつのが分かる。  ふざけるなと蔵元を怒鳴りつけたかったが丁度エントランスに、顔見知りの夫婦が入って来るところだった。 「こんにちは」   挨拶され、俺も慌てて頭を下げる。  夫婦の視線は俺ではなく、蔵元に固定されていた。  蔵元が小さく口角を上げると、夫婦はひそひそと囁き合いながらエレベーターにむかっていった。  唯希とそっくりな蔵元とこんな場所で話していたら、近所にどんな噂が流れることか。  俺の心の中を読んだように蔵元は言った。 「そこの路地に俺の車を止めてあるんだ。車の中で少し話せないか?」  断りたかったが、これ以上人目につくところで蔵元と言い争うわけにはいかなかった。  俺が頷くと、蔵元は嬉しそうに微笑んだ。

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