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第87話
唯希が学校から帰って来ない。
いつもなら15時には帰宅していたが、もう16時だった。
友達と学校帰りに遊ぶ時も、唯希は必ず一度ランドセルを家に置きに帰る。
蔵元のことが頭をよぎり、俺は恐怖で吐きそうになった。
震える指で唯希の友達の家に電話をかけると、美人な女の人と唯希が通学路でなにか話していたところを見たという。
俺は蔵元が自分で行くと警戒されるから、別の人間に頼んで唯希を誘拐したのではないかと考えた。
警察にも駆けこんだが全く相手にされなかった。
「帰りの時間が遅いって、まだ16時過ぎでしょ?近所の公園で友達とでも遊んでいるんじゃないの?」
「そう思って近所はくまなく探しました。けど、見つからないんですよっ」
ベルトの上に樽みたいな腹をのせた巡査は大きなため息をついた。
「分かりました。パトロール中の警官に気にしておくよう言っておきます。一応」
一応の部分を強調的に言われ、本気で探す気なんてないなと俺は確信した。
俺は半泣きになりながら樹に連絡した。
「分かったから、落ち着け。俺も早退して一緒に探すから」
「うん。仕事中に迷惑かけてごめん」
言った途端、後悔に襲われた。
「迷惑」は樹が大嫌いな言葉だ。
案の定、樹は大きなため息をついた。
「だから迷惑なんて思わないって言ってんだろ。冬は母さんに預けてるのか?ああ、あと唯人さんにも連絡しとけ」
「分かった」
「真」
樹は一旦、言葉を切った。
「唯希はきっとすぐ無事に見つかる。心配しすぎるなよ」
「うんっ」
俺は電話を切ると、直ぐに唯パパにかけた。
蔵元が訪ねてきたことは樹から聞いて知っていたそうだ。
「真。大丈夫だ。警察なんかよりずっと捜査能力のある探偵に依頼する。すぐ見つかるさ」
俺は唯パパに礼を言うと、また自分も近所を探し始めた。
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