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エピローグ3
「あのままだったら真はオメガ性を自覚せずに、自分が抱かれる側になるなんて想像もしないまま、そこらの女に惚れていただろうな。まあ、そうなったとしても俺が女なんて排除していたが」
成澤の瞳は目の前の蔵元ではなく、もっと遠くを見据えているようだった。
「あいつは子を孕んだことで色々変わった。他人の子供を育てさせているせいで俺には罪悪感を覚えるようになったしな。唯希は俺にとって本当に大切な子供なんだよ。だって唯希は真を罪悪感で縛るための鎖でもあるんだからな」
「お前は狂ってる」
「そうだとしたら、俺を狂わせたのは間違いなく真だ」
成澤は立ち上がると、扉のほうに歩いていった。
立ち止まり、振り返る。
「いいか。お前は俺達に近づかないという約束すら破ったんだ。覚悟しておけよ」
「成澤、頼むよっ。城ケ崎唯人さんに釈明させてもうらう機会をくれないか?こんな結果俺も望んじゃいなかった」
半泣きで立ち上がる蔵元を冷めた瞳で成澤は見つめた。
「もう手遅れだ」
そう呟くと、振り返りもせずに成澤は部屋を後にした。
成澤はホテルから出ると駅までの道のりを猛ダッシュした。
閉まる寸前の扉に滑りこみ、電車が無事発車したのを確認すると息を吐く。
今日は近所の夏祭りに子供と真と一緒に行く約束を成澤はしていた。
なのに、何故あんなに蔵元と話しこんでしまったのか。
ほんの一言、二言侮蔑的な言葉を投げつけ、あの場を立ち去るつもりだったのに。
成澤は自問した。
答えはすぐにでた。
蔵元は真が高校時代、憧れていた男だ。
その男を自分にひれ伏させることで、成澤はほの暗い愉悦に浸っていたのだ。
真のことになると成澤は常に冷静ではいられない。
そんな感情を引きだしてくれる相手に出会えたことが成澤にとっては奇跡みたいな出来事だったが、目をつけられた真は堪ったものではないのかもしれない。
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