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エピローグ4
ふと自分は父親によく似ていると成澤は思う。
もし和希が他の男に孕ませられたら、唯人はその男も子供も殺すだろう。もちろん和希に知られぬようにだ。
しかし父、成澤一貴ならばもし他の男に母が孕まされたのならば、その子供ごと取り込もうとするだろう。
今の自分のように。
降りる駅が近づき、成澤は足を踏み鳴らし始めた。
扉が開いた瞬間、他人とぶつからないようホームを駆け出す。
マンションの前にたどり着いたときには成澤の息はすっかり切れていた。
「父さん」
エントランスに立っていた唯希がこちらに走ってくる。
成澤はその金色の髪をかき混ぜるように撫でた。
紺色の甚平を着た唯希が笑顔で成澤を見上げる。
先ほどまで一緒にいた大嫌いな男と唯希はそっくりの容姿だったが、自分でここまで育て上げたせいか、成澤が唯希に嫌悪感を抱くことは一度もなかった。
むしろ唯希が産まれてから自分の中にこれほどまでに父性と呼ばれるものがあったのかと成澤は自分自身驚いていた。子供なんて五月蠅くて汚くて大嫌いだと思っていたのは唯希に出会うまでだった。
もちろん唯希が真を縛るための枷の一つであることは間違いない。
だが、同時に愛しい存在でもあることは成澤にとって疑いようもない事実だった。
唯希と色違いの白い甚平を着た次男の冬も、こちらに駆けて来る。
てっきり「お帰りなさい」と言ってくれるかと思って成澤は微笑んだが、冬は「兄さん、兄さん」と唯希の腰に纏わりついただけだった。
成澤は苦笑するとそんな冬と唯希を眺めた。
確かに冬とは血はつながっているが、唯希との方が実は気が合うのかもしれないと思いながら、成澤は顔を上げる。
ふいに浴衣を着た真と目が合う。
その瞬間、成澤の世界は真だけになった。
紺地にススキが描かれた浴衣は、色白の真によく似合っていた。
成澤は思わずその真珠色のうなじに手を伸ばしそうになり、子供たちの前だと自粛する。
「お帰り。仕事お疲れ様」
真が微笑んで言う。
成澤はそんな真にさっと近づくと、その細い腰を抱き寄せた。
成澤が頬に口づけると、真の頬がリンゴ飴の様な色に染まる。
「ただいま」
「お帰り」
真が成澤を見上げる。その瞳に自分だけが映っているのを確認し、成澤は満足げに目を細めた。
「父さん、行こうよ」
唯希と手を繋いだ冬が大声で言う。
「ああ、分かった」
成澤も真と指先を絡めると唯希たちの後を追った。
二人きりで過ごす恋人同士の時間は手に入れることができなかったが、それでもいいと成澤は考えていた。
成澤は何者にも代えがたい愛しい存在の傍らに一生立つという権利を、その時間と引き換えに手に入れたのだから。
成澤は口角を上げると、隣を歩く真の髪にそっと口づけた。
完
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