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昏い欲望(※近親相姦表現が含まれます。苦手な方はご注意ください)

 軽く扉をノックすると、冬は父親の書斎に足を踏み入れた。  父親の樹は机に向かって座っており、何か書き物をしているようだった。  樹は40を超えてもほとんど白髪もなく、精悍な顔立ちをしている。  冬の容姿は年齢を重ねるにつれ、樹にますます似てきていた。  自分が40を過ぎた時に、あそこまで若々しさを保てるなら悪くない。  冬はそんな風に考えながら、樹を眺めた。  冬の視線に気付いたのか、樹が顔を上げる。 「来たか」  頷くと、冬は掌で自分の二の腕を擦った。  冬が中学に入学する年に両親はこの家を購入し、住み慣れていたマンションからこちらへ引っ越した。  都内の一軒家は広々としていたが、あまりに部屋数が多く、冬はどこか寒々しさも感じていた。  あのままマンションに住んでいた方が良かった。  冬はそう考えることがしょっちゅうだった。  特に兄の唯希が一人暮らしの為に、この家から出て行ってからはなおさらだった。  唯希もきっとこの家が気に入らないんだ。  だから急に一人暮らしなんて始めたんだ。  冬のため息は本人でもちょっとびっくりするくらい、書斎に大きく響いた。 「ああ、急に呼び出して悪かったな」  樹の言葉に冬は慌てて首を振った。 「ううん。別に暇だし」 「受験生の言葉じゃないな」  樹が苦笑する。 「もちろん勉強はちゃんとしているよ。この前の模試の結果も志望校の合格判定Aだったし」  ふいに樹が表情を険しくした。  樹のそんな様子に冬が首を傾げる。 「冬。お前の進路のことだが」  樹は机の上にパンフレットを3つ放り投げた。 「留学しろ。どの大学も難関の名門校だが、お前の学力なら問題ないだろう」  問題ないだって?  あるに決まってるだろ。  冬は顔を顰めた。 「何言ってるんだよ、父さん。俺の志望校はN国立大学一本だって話したろう?父さんだって賛成してくれたじゃないか。それをいきなり留学しろなんて」  冬は怒りから握りしめた自分の両手を震わせた。

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