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*****    ・・・とこんな具合に。  総大将・ぬらりひょんのそばで、人へのトラウマを癒す傍ら・・・博識な同居人(何せ千年以上生きる大妖怪である)を師と仰ぎ。字の読み書きを手始めに、様々なことを学んでみたり。 数か月に一度は鵺の背に乗せてもらい、遠く日向まで家族を見守りに出かけたりなどしながら日々を送り・・・気づけばもう四十年余りの時が流れ――。  共に暮らす赤司や、雪女やその夫だいだらぼっちの計らいにより・・・雪の降らぬ温かな土地で果樹を育てながら、ゆったりのんびり暮らしたおかげか。祖母も父も・・・最後に逝った母も長寿と羨ましがられる年まで大病もせず、天寿を全うしたし。 母に至っては、最期の一年を・・・赤司の進言のおかげで、同じ屋根の下で暮らすことまでできたため。悔いが残るどころか、ひたすら感謝するしかなくて。  ・・・いやだからこそ。  急きょ駆けつけてくれた総大将とともに母をあの世に送り、明日には赤司の暮らす屋敷に戻るという、その前日の夜更け。 いつもならわざわざ呼び寄せたりしなくとも、さも当然のように布団の中にもぐりこんで来ては・・・腕枕を所望してみたり、天下の総大将様を抱き枕代わりにしてみたり。 勝手知ったるなんとやらで(甘やかし放題にしたのは他ならぬ赤司であるが)、自由奔放にふるまっていたのに。 今宵に限ってはいくら促そうとも、先に横になっていた大妖怪様の枕元にちんまり正座したまま・・・首をふるふる横にふるばかりで一向にその場を動こうとしないから。 「・・・テツヤ?」  とうとう痺れを切らした赤司が『いったい何事だ?』と訝りつつ、身体を覆っていた布団をめくって上半身を起こし、居住まいを正した小さな身体に向き合ったところでようやく――。 「・・・征さま。ボク決めました」 「ん? なにを決めたって?」 「ボク、このままここに残って・・・この家の座敷わらしになることにしました」  ですからもう征さまと一緒には暮らせませんと。 とある事情により、最早熟練の域に入った・・・抑揚を極力抑えた口調と無表情でもって、決意を口にしてみせる。 けれど・・・。 「オレを見くびってもらっては困るよ、テツヤ」 「・・・へ?」 「本当はここに残りたいなんて。座敷わらしとして一人前になりたいなんて思っていないことくらい・・・お前が本心を偽っていることくらいお見通しだ」 「いえ、そん、なことは「あるだろう? いくら表情や声音で取り繕ったところで、お前の立ち居振る舞いやら、その大きな瞳を揺らす不安や憂慮に滲み出てる。わざわざ(妖)力を使う必要がないくらいはっきりとね」」  二人きりの寝屋に重苦しく覆いかぶさる暗闇を照らし出す行燈の中の蝋燭が・・・隙間風が吹き抜ける度ゆらゆら揺れる様を広い視界の端に捕らえて『テツヤの胸の内とまるで同じだな』などと思いつつ。 「それはそうといつまでもそんなところで固まってないで、早く隣においで」  話なら横になりながらすればいいじゃないかと――膝小僧の上でぎゅうと握られた両の拳を優しくなでさすって促す。 ・・・が、けれど。 「でもダメなんです・・・征さまのおそばにいちゃ・・・」  一端こうと決めたら、そう簡単には意思を曲げない頑固者が・・・またも首を横に振って“いやいや”しながら、差し伸べられた手を押し返してくるから。 「これからも一緒に暮らしてほしいって・・・そうオレが頼んでも?」 「で、も・・・このままだとボク、一人前の座敷わらしになれな・・・から、」  口ほどにものを言う(特にテツヤはそれが顕著だ)水色の瞳を、俯き隠してまで。 さらには。そのいかにも頼りなさげな肩をぎゅっと竦め。口はしどろもどろになりながらもあくまで――赤司ほどの男相手にしらを切り通すつもりでいるその考えの甘さやら・・・いや、それ以上に。差し伸べた手を拒まれたことや、(不謹慎にも)密かに楽しみにしていた一年ぶりの添い寝がお預けになりそうなことや・・・そういうもろもろを合わせた全てに業を煮やした(見た目)美少年が――。 「それもう一度・・・ちゃんとオレの目を見ながらいってごらん? テツヤ」  おもむろにスッと両の腕を伸ばしたかと思ったら、あれよあれよという間に正面の小さな身体を捉え、抱き上げ、膝の上に向かい合って腰掛けさせると。 その勢いのまま頤(おとがい)をすらり長い指で捕まえたと同時、すぐに俯きかける顔をくいと持ち上げて。  その紅赤色の目と言わず、肩と言わず――身体中から烈火のごときオーラを“轟”と放ちながら、互いの鼻先が触れそうなほどずいと顔を寄せ迫力満点に迫る。 すると。 「・・・・・・っ、」  千年余りも生きる超絶美形による、鬼気迫る追及を前に(にもかかわらず。声だけは凪いでいるのが返って恐ろしさを倍増させている)、びくりと身体を強張らせつつ。さも・・・困った、どうすればいい? とでも言いたげな風情で視線をうろつかせ。固唾と一緒にごくり――建前ものみ込んで二の句が告げなくなった童の様子に『あと一息』とばかりたたみかける。 「――やはりそうか。で、お前はいったい何を隠してる?」 「・・・・・・」 「テツヤ」 「・・・・・・いえません」  それでもなお。今にも泣き出しそうにぎゅっと眉をしかめつつ「どうか堪忍してください。征さま・・・」とうるうるの瞳で見上げてくる筋金入りの頑固者に。 『オレがお前の涙にどれほど弱いか知っていて・・・まったくテツヤときたら』なんてうっかり絆されそうになりながらも、気を引き締め直し。 「ことがことなだけに、お前の口から真実を聞きたかったところだが「征さま、どうか「こうなっては仕方ない。力(宿命通)を使ってお前になにがあったか知ることにする」 「どうしてそこまで・・・?」  無駄なあがきと知りながらもじたじたともがき、拘束から逃れようとする子を抱っこ状態でがっちり抱え直し。 互いの頬同士をぴったりくっつけると、耳元に向かい「ずっとテツヤと一緒にいたいからに決まってる」と囁いて。寄越された疑問に答えてやる――。

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