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第1話 試練(2)

 しかし、テラの視線はハナを上滑りし、一緒にきたルナ以外の正式メンバーの、オトハ、ミキ、ネネへと移った。すると、咄嗟にテラの視線に応え、まるでこの場の主人だと認めるように、畳み掛けるようにして「フィオーレ」たちが、ハナを入れ、四人でステージに立つ旨を主張した。 「メッセージ読んだら連絡くれって言ってある。既読付かないけど」 「連絡がつかないだけで、まだ日本にいる」 「ルナはあたしたちを拒絶したわけじゃない。戻ってくる。だからお願い」  アルファである彼女たちが、人に頭を下げる姿は初めて見る。希少種と言われる男性オメガのハナと違い、アルファは本来、女性も男性も群れるのを嫌う孤高の王であることが多い。協調性に欠け、主義主張が激しく、個性的であるがゆえに、一般に、アルファの群れをまとめていくのは、とても難しいとされている。  視線だけで悠々と、それをやってのけるテラに、ハナは一種の畏怖に近い感情を抱いた。  地下アイドル、またの名をライヴアイドルと称する男装した女性アルファの四人グループ「フィオーレ」は、ライヴアイドル界では群を抜いている。都心の一等地にダンススタジオ兼ライヴハウス「ピアンタ」を持ち、女性アルファのみが男装してパフォーマンスを行うという点において、とても珍しい存在だ。  だが、何よりも大事なはずのファーストアルバムのリリースイベントの初日に、フロントで踊るはずのルナが、楽屋から忽然と姿を消した。  スマートフォンに、ルナからの謝罪メッセージが入った時のことを思い出すと、ハナは胸が痛んだ。彼女は今、どうしているだろう。  ともあれ、メンバーが三人に欠けた状態で、どうライヴを成功させるか、本番直前に紛糾した「フィオーレ」たちは、バックアップメンバーとして舞台袖にいたハナに、代打を頼むことに決めた。  男性オメガのハナは、アルバイトという形ではあるが、四人のどの位置を踊らせても、どの位置で歌わせても、正確にお手本を再現できるという特技を持っていることから、二年程前から「フィオーレ」の歌とダンスレッスンのサポートをしてきた。そんなハナをルナの代わりにリリイベのフロントメンバーに仕立て、どの曲もフォーメーションを崩さずに、あくまで「四人」でライヴを成功させることに、「フィオーレ」は拘った。  そして、当日、客席の最後列からステージ全体を統括していた、プロデューサーの明に事実を事後追認させ、その明を伴い、渉外担当兼衣装デザイナーのテラを説得にきたのが、今である。

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