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第1話 試練(4)
「きみらがしたことは、女性アルファばかりで構成されている「フィオーレ」のコンセプトを根底から覆すことだ。不愉快だな」
きみら、と言われた中にさりげなく入れられたことを察した明が、ムッとして反駁した。
「だがテラ、ルナがいない今、十二曲全部を三人編成で踊るのは無理だ。現実的に考えて」
「現実的に、ね。きみが「フィオーレ」に関することで「現実」を持ち出すとは。明、少し身びいき過ぎやしないか? 総合演出としての言葉とは思えない」
「俺だって最初はステージにいるのがハナだとは思わなかったんだ……! だが、ライヴはもう敢行されてしまった。帳尻を合わせるには、しばらくハナを使うのがベストだ。頼むよ」
テラの逆鱗に触れてはまずいと、明までもが搦め手に回った。ハナ案を通すには、下手に出た方が得策と踏んだようだった。
「きみらの気持ちはわかった。だがオメガを入れることに、わたしは反対だ。「フィオーレ」のコンセプトをきちんと理解しているのか? だいたい、オメガごときに軽い気持ちで舞台に立たれては迷惑だ。次のステージまで、三日もあれば、十二曲、立ち位置を変えるぐらいわけないだろう?」
冷たく言い放ったテラに、リーダーのミキが食ってかかる。
「振り付け担当のルナがいないのに、そんな簡単に……っ」
「あの」
ハナが口を開くと、その場がしんと凍りついた。
当然だ。今までいないも同然のものとして扱われてきたオメガに、この場においての発言権があるとは、ハナ自身でさえ、思っていなかった。
男女の性差の他に、バース性という特殊な性を得た人類は、新たなヒエラルキーを形づくった。一般的に支配層と言われる飛び抜けて有能なアルファ、人口の大多数を占める、特徴のぼやけた者が多いベータ、そして、被支配層とみなされている、ごく一握りの、無能で使えないモノとされているオメガ。
アルファばかりの集うこの空間において、オメガであるハナは、ヒエラルキーの最下層に位置する。本来ならば言葉を交わすことすら許されない。ハナにアルファと同等の権利があるとは、この場の誰も、兄である明ですら、思っていなかったようだった。
しかし、ここでハナが発言しなければ、ルナの存在が黙殺されてしまいかねない。それでは、ルナの代役として、ハナが勇気を振り絞ってステージに立った意味がなかった。
「ぼくの、どこが不満ですか? オメガ以外のところで」
アルファ全員に注目されて、胃の腑がキュッと縮まる。ライヴ後に補給した水分が、食道を逆流しそうだった。
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