5 / 108

第1話 試練(5)

 しかし、ライヴを捨ててルナが消えた時、残された「フィオーレ」たちに、ルナは必ず帰ってくると説いたのは、他でもない、ハナだった。その責任を果たすためには、ハナが主張するしかない。 「きみは明の弟だそうじゃないか」  その時、初めてテラが、まともにハナを見た。  美しい蒼穹の眸に、鋭く見据えられるだけで、腰が抜けそうになる。 「はい」 「男という時点で、「フィオーレ」の約定である、女性アルファというカテゴリから外れている。しかもプロデューサーの身内となれば、贔屓人事と取られかねない。だいたいきみは、正規のメンバーとしてやっていく気はないのだろう? それでファンが納得するかどうか」 「今日、コールが掛かりました。ぼくに」 「だからファンは納得したと? 馬鹿げている。一時、流された愚か者がいるだけだろう」 「そんなことない。どうせテラだって見てたんじゃない……!」 「あれを見ておいて、ハナに資格がないなんて、言えるの?」  ネネとオトハの指摘によると、この部屋には、スタジオ「ピアンタ」のステージを見据える、定点カメラと繋がったシステムが構築されているらしい。テラはホテルの自室にいながら、ライヴの全てをチェックできるのだ。 「オメガである時点で不合格だと言っているんだ。しかも男だぞ。コンセプトに反する」 「バックアップメンバーにまでコンセプトは求めないって、ハナが入った時に言ってたじゃん!」 「あくまでバックアップだからだ。ステージに立つきみらとは根本的に責任の重さが違う」 「ハナはもうずっと長いこと、あたしたちを支えてくれてる。今日のステージだって、ちゃんとした実績があったから成功したのでは?」 「そうだよ。あたしは、他の誰かを入れるより、ハナがいい。それに三人編成で踊るのは嫌。ルナのこともあるし……っ」 「しつこいぞ」  かしましく喋り出した女性アルファたちを一喝して黙らせると、テラは苛立たしげに、この喧騒を作り出した元凶とばかりにハナを凝視した。 「オメガでなければ、ぼくでもいいわけですか?」 「何が言いたい。なぜそんなに食い下がる。きみには関係……」 「関係あります。それに、彼女の苦悩に気づけなかった……ぼくなりの償いをしたいです」  リリイベ前日のリハで、楽屋からいつまで経っても出てこないルナを迎えに行ったハナは、立ったまま震えながら泣いているルナを目の当たりにしながら、何も言えず、尋ねることも、できなかった。 『私、もう駄目かもしれない……っ』

ともだちにシェアしよう!