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第1話 試練(5)
しかし、ライヴを捨ててルナが消えた時、残された「フィオーレ」たちに、ルナは必ず帰ってくると説いたのは、他でもない、ハナだった。その責任を果たすためには、ハナが主張するしかない。
「きみは明の弟だそうじゃないか」
その時、初めてテラが、まともにハナを見た。
美しい蒼穹の眸に、鋭く見据えられるだけで、腰が抜けそうになる。
「はい」
「男という時点で、「フィオーレ」の約定である、女性アルファというカテゴリから外れている。しかもプロデューサーの身内となれば、贔屓人事と取られかねない。だいたいきみは、正規のメンバーとしてやっていく気はないのだろう? それでファンが納得するかどうか」
「今日、コールが掛かりました。ぼくに」
「だからファンは納得したと? 馬鹿げている。一時、流された愚か者がいるだけだろう」
「そんなことない。どうせテラだって見てたんじゃない……!」
「あれを見ておいて、ハナに資格がないなんて、言えるの?」
ネネとオトハの指摘によると、この部屋には、スタジオ「ピアンタ」のステージを見据える、定点カメラと繋がったシステムが構築されているらしい。テラはホテルの自室にいながら、ライヴの全てをチェックできるのだ。
「オメガである時点で不合格だと言っているんだ。しかも男だぞ。コンセプトに反する」
「バックアップメンバーにまでコンセプトは求めないって、ハナが入った時に言ってたじゃん!」
「あくまでバックアップだからだ。ステージに立つきみらとは根本的に責任の重さが違う」
「ハナはもうずっと長いこと、あたしたちを支えてくれてる。今日のステージだって、ちゃんとした実績があったから成功したのでは?」
「そうだよ。あたしは、他の誰かを入れるより、ハナがいい。それに三人編成で踊るのは嫌。ルナのこともあるし……っ」
「しつこいぞ」
かしましく喋り出した女性アルファたちを一喝して黙らせると、テラは苛立たしげに、この喧騒を作り出した元凶とばかりにハナを凝視した。
「オメガでなければ、ぼくでもいいわけですか?」
「何が言いたい。なぜそんなに食い下がる。きみには関係……」
「関係あります。それに、彼女の苦悩に気づけなかった……ぼくなりの償いをしたいです」
リリイベ前日のリハで、楽屋からいつまで経っても出てこないルナを迎えに行ったハナは、立ったまま震えながら泣いているルナを目の当たりにしながら、何も言えず、尋ねることも、できなかった。
『私、もう駄目かもしれない……っ』
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