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第1話 試練(6)

 その時は何のことか、全くわからなかったが。  残された「フィオーレ」たち三人にせがまれ、ルナに託されたステージを、彼女が戻るまでやり切る決意は、リリイベの初日のステージに上がった時、いや、「フィオーレ」たちに懇願され、決断した時点で、とうに決まっていた。 「何でも、します。どんな覚悟も、必要なら。だから少しだけでいいから、ぼくを……オメガとしてでなく素材として、見ていただけませんか? それとも、あなたも、男のオメガはろくでもないから、見たくもないですか。でも、ぼくだって、好きでオメガに生まれてきたわけじゃない」 「何の話をしている……」  ハナの口調から、自嘲と皮肉を敏感に感じ取ったテラは、溜め息をついた。 「ぼくは、ルナのためにできることがあるとわかってるのに、やらないのは怠慢だと思うんです。彼女にあとを頼まれた責任として。それに……」  最初にハナをバックアップメンバーとして「フィオーレ」に推挙したのは明だったが、プライドの高い思春期の女性アルファばかりのグループで、一番初めにハナの存在を受け入れてくれたのは、ルナだった。  バース性がオメガだと打ち明けても、彼女は「知ってた」の一言で、ありのままのハナを見てくれた。ハナにとってそれは、世界が引っくり返るような出来事だった。今の現実があるのは、ルナのおかげといっても過言ではない。 「せめて話だけでも聞いてください。理解しなくてもいい。でも、機会をください。見るだけでも……っ」  ハナが身を乗り出すと、面倒くさそうにテラが吐き捨てた。 「ステージなら見た」 「完璧だったでしょ?」 「あたしたちも一緒にV見返してみたけど、しっかり踊れてた」 「ルナの癖まで完コピしてた。これなら大丈夫」  「フィオーレ」たちが主張するのを聞いたテラは、話にならないとばかりに背を向けた。 「何が大丈夫なものか。よくもこんな勝手ができたものだな。明、きみもだ」 「俺だって止められれば止めてた。でも、現実的に考えて……」 「現実はもういい」  テラはヒラリと手を振ると、明と「フィオーレ」の言葉を苛立たしげにあしらった。 「不満があれば仰ってください。オメガ以外のところで」 「どうもこうも……オメガである時点で」 「オメガである以外の理由は、ないということですか?」 「それは──何が言いたい」

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