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第1話 試練(7)

 テラが不快に眉を顰めたのも無理はない。ハナは近年台頭してきた「バース性差別主義に対する反対決議」を意識していた。支配層であるアルファと大多数のベータが、ともにほぼ無関心であるにもかかわらず、国民の間でオメガに対する保護意識が俄かに高まりを見せているのには、理由がある。ごく少数の、オメガをパートナーとするアルファが先陣を切り、国会にはかり、まとめ上げたこの「決議」は、法的拘束力こそないものの、バース性による差別、特にオメガを差別する空気に対する、わずかながらの抑止力となりつつあった。  テラをバース性差別主義者だと認定する勢いで煽ったのは、明や「フィオーレ」たちが賛成する中、ひとり異を唱えるテラに、「決議」に反する決定をさせない圧力となることを想定してのことだった。  テラは、こうしたハナの意図と、周囲の空気を敏感に読み取ったのだろう。苛立たしげに額を手で押さえ、言った。 「ハナとやら、少しこちらへ。二人だけで話がしたい」 「はい」  言われて、ハナは関門を突破したことを悟った。  二人きりの話し合いに持ち込めば、あとは自分の器量次第だと思った。

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