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第2話 純潔の価値(2)
「父と母がアルファです。それに、兄の明に、よく似ていると」
思い切って言うが、テラは、失笑しただけだった。
「何年前の話だ。きみは彼を幼くしたより、もっと……」
──華奢で、艶かしい。
そう言おうとしたのだと、直感でわかった。
が、何かがテラを踏みとどまらせた。アルファが躊躇うところなど、初めて見る。兄以外の男性アルファには初めて逢ったハナだが、オメガだと知って、発情抑制剤を口にしたテラは、外聞を気にする、いかにも保守的なアルファに見えた。
ハナは思い切って揺さぶってみることにした。
「他に、何ができればいいですか?」
足元に落とした衣装を跨いで、テラに向かって一歩を踏み出す。
「他に……?」
「踊りますか? 歌いますか? ステージはご覧になられたんですよね?」
言葉で争っても、聡明なアルファ相手に、勝機は少ない。ならば実力行使に出るまでだった。押して押すのみ。ルナの居場所を勝ち取るために、ハナの手にある選択肢は、それほど多くない。
「ぼくのまだ見ていないところを、ご覧になりますか? 何をすれば、認めていただけるのでしょうか? 何でもします。あなたのために」
「不要だ。わたしは意見を変えるつもりはない」
案の定、引いたテラに向かって、ハナは、まっすぐに歩き出した。
「お願いです、ぼくを使ってください。後悔はさせません。ルナは絶対に帰ってきます。それまでの間でいいですから、ぼくをステージに……っ」
「しつこいぞ、いい加減に……」
言いながら、ハナに押され気味に後ずさる、テラのスーツの袖を掴むことに成功した。
もうひと押しだと思った。
(あわよくば、このまま押し切れれば……)
「離せ」
「嫌です……っ」
「離しなさい、っ」
「絶対に嫌です……!」
このまま押し切れば、「わかった」と言ってくれそうな気がしたが、それはテラが状況を再認識するまでのことだった。
「勘違いをしているようだが、きみがルナの位置にいたからといって、彼女が帰ってくる保証はない。事実行方不明だ。連絡もない。成田にいるということは、そのまま国外へ逃げないとも限らないだろう」
「ルナは必ず帰ってきます」
「何を根拠に?」
「託したからです。ぼくに。ルナは約束を破るような人じゃない。それはきっと、あなたの方がよくご存知ですよね……?」
ハナは、持っていたスマートフォンのメッセージ画面を開いて、テラに見せた。
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