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第2話 純潔の価値(3)

『ごめんなさい、あとをおねがい』  会話は、ルナの紡いだその一言で終わっていた。それから、いくらメッセージを送っても、既読は付かなかった。その時の必死さを保存したスマホを、テラは眉を顰めて見た。  ルナの放った言葉の重さを、ハナでさえ汲み取れるぐらいなのだ。テラが悟れないわけはない。事実、それを読んだテラは、瞼を閉じ、深刻な顔をした。 「確かに……オメガを入れても四人編成を守った方が、ルナも帰ってきやすいだろう」 「!」  テラがスマホをハナに返しつつ、呟いた。  向かい風が吹いているのがわかった。乗れば飛べるかもしれない。 「……今から三人編性に変えるのが、現実的じゃないことは、わたしもわかっている。かといって、そう簡単に「フィオーレ」に見合う代打の女性アルファを見つけられるとも限らない。例え見つけたとしても、その人物をイチから教育し、育てている手間も暇も今はない。まっさらな素人の女性のベータやオメガを入れるよりは、バックアップの男性オメガを入れた方が、グループ内でトラブルが起こるリスクも減るだろう。女性アルファと男性オメガは恋愛関係に陥らないという点でも、きみが適任と言えなくもないな。きみなら振り付けも歌も完璧だ。「フィオーレ」たちとのコンビネーションや協調性も申し分ない。振り付けも変えずに済むし、彼女たちの負担も、明の負担も減る。わたしの負担は増えるが」 「それでは……」 「とりあえず、服を着なさい」  命じられたハナは、急いで言われたとおりにした。 「……にしても、ひどい格好だな。もう少し何とかならなかったのか? きみがステージに立つならば、衣装は全部、イチから縫い直しだな」 「すみません……」 「きみのせいではないだろう。──が、」  案の定、テラはひとつ深呼吸したあとで、顔を上げてハナを見た。 「ひとつ条件がある」 「何でしょう?」  条件を提示してくるだろうことは予測できていた。ハナがそれを呑めば、フロントを任せてもらえるだろうことも、わかっていた。 (何を言われようと、頷く準備は、できている……) 「わたしに、純潔を捧げる覚悟があるか?」  だが、提示された言葉に、ハナは、一瞬、息を止めた。 「え……っ?」  聞き返したハナを凝視しながら、テラが顎を引いて、わずかに笑ったように見えた。

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