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第2話 純潔の価値(5)
「きみは……っ、わたしの言った言葉の意味がわかっているのか?」
動揺した声音に、今度はハナが畳み掛けるように言葉を継ぐ。
「捧げるのは純潔だけですよね?」
「待て。待て……! そうだが、」
テラは混乱を収拾しようと、片手で髪をかき回して呻いた。今まで、兄の明を除く全てのアルファを恐ろしいものだと思っていたことが、嘘のようだった。さすがにここまで食い下がるとは思っていなかったのだろう、テラの取り乱しぶりに、ハナは笑い出したくなるような、胸のすく気分になった。
「決心は変えません。フロント、やらせてください。やらせてくれますよね?」
ハナが顔を上げると、テラは忌々しいものでも見るような表情で、呟いた。
「……誓約書を書くか?」
「一筆いただけるなら」
「──っ」
テラは乱暴な足取りでライティングデスクに歩み寄ると、一枚の紙に苛立たしげに何かを書き付け、ハナを隣りへと呼んだ。
「そら。君もここにサインを。……これで我々は共犯者だ」
誓約書は、なぜかイタリア語で書かれていて、ハナには内容が読めなかった。
しかし、ハナは躊躇わずペンを取り、テラのサインの隣りに、「白井花人」とサインをした。
その筆跡を確認すると、テラはその紙を引き出しに仕舞い、「少し待っていなさい」と言い残し、部屋から出て行った。
しばらくのちに「フィオーレ」たちの歓声がし、明とテラの、何やら乱暴な話し合いの声が聞こえてきた。
やがて静かになると、ドアを開けたテラが眉間にしわを寄せて言った。
「話は済んだ。今日は帰りなさい」
不機嫌をあらわに、肩越しにカードキーを渡される。
「月曜日の朝、十時にここへくるように。ひとりでな。せいぜいルナが帰ってくるまで、頑張ることだ」
「ありがとうございます……!」
ハナはキーを受け取ると、テラの気が変わらないうちに、急いで部屋を出た。
一時間半、歌い踊った後遺症か、膝が震えていた。それは体力の限界がきているからで、断じてこの決断のせいではない、とハナは自分に言い聞かせた。
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