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第3話 家庭教師(2)

「ぼく、浮いたりしてませんでしたか? 周りのルナファンから、苦情とか……」  ハナは、牧野以外の一般のファンが果たしてどう反応したのか、生の声を知りたいと思った。ルナは一番人気を誇るフロントの華だ。テラには見栄を張ってみたものの、コールがかかったのは、牧野がさりげなく裏から手を尽くしてくれたからで、本来のルナファンからは疎まれているのじゃなかろうか、という不安を払拭できなかった。 「正直、Aパートの半分ぐらいまでは、ルナと見間違えてたよ。周りもほとんど、そうだったんじゃないかな」  だからハナは凄い、と主張した牧野の声に、ようやく胸を撫で下ろし、ハナは肩の力を抜く。 「良かった……。でも、あの、牧野さん」  ルナのパフォーマンスを観たいファンからすれば、ステージにルナがいないのは、詐欺みたいなものだ。ハナは、せめて牧野にだけでも、そのことを謝ろうとした。 「ぼく、その……っ」  切り出す言葉を探しながら顔を上げると、不意に牧野が言った。 「楽しかったよ」 「え……?」 「ステージ。初アルバムのリリイベってだけじゃなく、ハナが一生懸命踊ってたからかな」 「ほ、本当、に……?」 「嘘ついてどうするの。確かに、ルナは心配だけど、ステージで踊るハナを話題にしてた人もいたよ。総じて楽しかった、っていうのが最大公約数的意見じゃないかな。……きみは、良くなかったの?」  遠慮がちに問われ、ハナは初めて、この体験をプラスに捉えてもいいのだ、と気づいた。  闇の中に散り散りに浮かぶ、サイリウムの群れ。  スポットライトの熱。  ハナへの熱いコール。  ファンとの一体感。  仲間との連帯。  あのステージで感じた感動を、肯定してもいいのだと、牧野に言われ、やっと納得する。 「ううん。ぼくも……、ぼくも楽しかったです。ありがとう、牧野さん」  コールをくれて。  応援してくれて。  その声が、どれだけハナの力になっているか、牧野にどう言えば、伝わるのだろう。 「ルナが復帰するまでは、きみがフロントを演るんだろう? 頑張って。応援してる」  その声に、ハナは、次にステージに立つ時は、もっといいパフォーマンスをしよう、と心に決めた。せめて、牧野が応援してくれる、その想いに恥じないステージにしたかった。

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