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第4話 採寸(2)(*)
日差しの差し込むテラスの一角へハナを導くと、テラは首に掛けていたメジャーを指でつまみ、「抑制剤は飲んできただろうな?」と確認した。
「もちろんです。いつも、飲んでいるので」
「よろしい。ここに立って。背筋を伸ばして、顎を少し引いて。緊張するな、採寸に影響するだろ。楽にしなさい。オメガだからといって、無理矢理、取って食ったりはしない」
言いながら、ハナの身体から強張りを解いてゆく。コートと上着を脱がされ、身体の線が見えるシャツ一枚、スラックス一枚の格好にされると、おもむろにハナの身体にメジャーを当てていきながら言った。
「先日も言ったろ。生煮えみたいな雄のオメガを味見しても旨くないと」
「な、生煮え、って……」
「不満か?」
「いえ、別に」
「後ろを向いて。視線はやや上……肩を楽に。そのまま」
テラは、言いながら、身体に柔らかなタッチでメジャーを当てつつ、素早く読み取った数字を、持っていたメモに書き付けてゆく。ようやく緊張が解け、反動でどっと疲れが出たハナを見て、テラは、フン、と鼻を鳴らした。
「処女をもらうのはルナが帰ってきたあとだ。それまでに、きみには熟れたオメガになってもらう」
「あの、じゃあ、今日は……?」
てっきりテラと身体を重ねる覚悟でいたハナが尋ねると、テラは肩を竦めた。
「きみの衣装をつくるのに、採寸が必要、というだけだ」
「何だ……」
ホッとするハナを横目で見たテラは、何かを思いついたように笑みを深くした。
「ま、用も無事に済んだことだし、少し遊んでやる。きなさい」
言って、先日と同じ寝室へのドアを開け、ハナを誘った。
*
寝室は、むっとするほど純度の高いテラの匂いに満ちていた。
大輪の薔薇を思わせる豪奢な香りにぼうっとしていると、部屋の真ん中に鎮座するキングサイズのベッドに腰掛けたテラが、自分の膝を軽く叩いた。
「こちらへ」
言われて、鼓動が跳ねた。
発情抑制剤を飲んでいるから落ち着いていられるのだろうが、薬は万能ではない。突発発情が起きたら、一蓮托生、ましてや間違いが元で妊娠でもしたら、泣きを見るのはハナの方だ。
迷っていると、「何も取って食いやしない」と再び呆れ顔をされた。
「きみはいわば、まだ青い蕾だ。綻ばせるには、少し手間が要る。それだけだ」
ハナが仕方なく膝に乗ると、ふわ、とテラの匂いが、さらに強くなる。
抑制剤がしっかり効いていれば大丈夫なはずだ、と言い聞かせ、身をまかせたつもりが、相手の体温を肌で感じるほど、深く誰かをパーソナルスペースに入れた経験のないハナは、気がつくと両手をきつく握っていた。
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