16 / 108

第4話 採寸(2)(*)

 日差しの差し込むテラスの一角へハナを導くと、テラは首に掛けていたメジャーを指でつまみ、「抑制剤は飲んできただろうな?」と確認した。 「もちろんです。いつも、飲んでいるので」 「よろしい。ここに立って。背筋を伸ばして、顎を少し引いて。緊張するな、採寸に影響するだろ。楽にしなさい。オメガだからといって、無理矢理、取って食ったりはしない」  言いながら、ハナの身体から強張りを解いてゆく。コートと上着を脱がされ、身体の線が見えるシャツ一枚、スラックス一枚の格好にされると、おもむろにハナの身体にメジャーを当てていきながら言った。 「先日も言ったろ。生煮えみたいな雄のオメガを味見しても旨くないと」 「な、生煮え、って……」 「不満か?」 「いえ、別に」 「後ろを向いて。視線はやや上……肩を楽に。そのまま」  テラは、言いながら、身体に柔らかなタッチでメジャーを当てつつ、素早く読み取った数字を、持っていたメモに書き付けてゆく。ようやく緊張が解け、反動でどっと疲れが出たハナを見て、テラは、フン、と鼻を鳴らした。 「処女をもらうのはルナが帰ってきたあとだ。それまでに、きみには熟れたオメガになってもらう」 「あの、じゃあ、今日は……?」  てっきりテラと身体を重ねる覚悟でいたハナが尋ねると、テラは肩を竦めた。 「きみの衣装をつくるのに、採寸が必要、というだけだ」 「何だ……」  ホッとするハナを横目で見たテラは、何かを思いついたように笑みを深くした。 「ま、用も無事に済んだことだし、少し遊んでやる。きなさい」  言って、先日と同じ寝室へのドアを開け、ハナを誘った。 *  寝室は、むっとするほど純度の高いテラの匂いに満ちていた。  大輪の薔薇を思わせる豪奢な香りにぼうっとしていると、部屋の真ん中に鎮座するキングサイズのベッドに腰掛けたテラが、自分の膝を軽く叩いた。 「こちらへ」  言われて、鼓動が跳ねた。  発情抑制剤を飲んでいるから落ち着いていられるのだろうが、薬は万能ではない。突発発情が起きたら、一蓮托生、ましてや間違いが元で妊娠でもしたら、泣きを見るのはハナの方だ。  迷っていると、「何も取って食いやしない」と再び呆れ顔をされた。 「きみはいわば、まだ青い蕾だ。綻ばせるには、少し手間が要る。それだけだ」  ハナが仕方なく膝に乗ると、ふわ、とテラの匂いが、さらに強くなる。  抑制剤がしっかり効いていれば大丈夫なはずだ、と言い聞かせ、身をまかせたつもりが、相手の体温を肌で感じるほど、深く誰かをパーソナルスペースに入れた経験のないハナは、気がつくと両手をきつく握っていた。

ともだちにシェアしよう!