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第4話 採寸(3)(*)
冷や汗に手がべたついて、つい後ろを伺うと、「ん?」と首筋で囁かれ、逆に存在を強く意識してしまう。
うなじにかすかにテラの息がかかり、全身がぞわりと総毛立った。不快なわけではない。むしろ、期待に身体の芯が熱くなってきている気さえする。それが怖かった。
テラはシャツ一枚のハナの体表をするりと撫で、脛骨の出っ張りに、鼻で触れた。
「んっ」
「男のオメガ、しかも処女なんて、食えたものじゃない」
囁かれてすら、敏感に反応してしまう。
「膝を開いて」
「っ」
言われて初めて、テラに緊張が伝わったのか、かすかに笑まれる気配がした。
「半裸でわたしを挑発した時の意気はどうした? それとも、わたしとこうする前に、尻尾を巻いて逃げ帰るか?」
「違、います……っ」
ハナがおずおずと脚を開くと、テラが耳元で囁いた。
「今日は、身体を明け渡すことを学んでもらう」
「き、今日、は……?」
「これからきみには、ここにくるたびに、こうしてもらう。何、ルナが復帰するまでのことだ。それほど長い期間じゃない。もっとも、誓約書を破棄したければ、いつでも言ってくれてかまわないが」
馬鹿な誓約をした、馬鹿なオメガだと思われているのだろう。テラが微笑したのが、振り返らなくてもわかった。
「破棄は、しません……っ」
言ってはみたものの、不安と焦燥でどうにかなってしまいそうだった。もし、突発発情が起こってしまったら、誓約書も、テラとの約束も、吹き飛んでしまう。
「まずは、……そうだな。力の抜き方を覚えなさい」
言いながら、テラの片手が上がり、そっとハナの頤に触れた。ひく、と反応してしまい、慌てて隠そうと力を入れると、腰を抱いている方の腕がハナを強く抱き寄せた。
「ちょ……っ」
「わたしをその気にさせた方が、きみにとって、いいのではないか?」
「っ」
拒もうとするハナを、テラは余裕の笑みと声で挑発した。
心臓が破れそうに鼓動している。オメガには少なからず、アルファに対する憧憬があるが、テラに対して抱く印象は最悪だった。自信過剰で利己的な、権利だけを享受するテラのようなアルファがいるから、いつまで経ってもオメガを人として見ない人間が減らないのだ。
そんなアルファの言いなりに、いいようにされている自分を、ハナは嫌悪した。
匂いはきつく、身体の芯が震える。だが、ハナの本来持つ負けず嫌いな側面が顔を出し、テラに導かれるまま、身体の各部の力を抜くよう、意図的に努めた。こんなアルファの言いなりになるのは癪だったが、今は、ルナのことをこそ考える時だった。
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