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第5話 謝罪(1)

「ごめんなさい……!」  スタジオ「ピアンタ」のダンスルームで、ルナが勢いよく頭を下げた。  プロデューサーの明と「フィオーレ」の三人、それにバックアップメンバーのハナの前で縮こまったルナの右足首には、包帯が幾重にも巻かれている。痛々しい姿に同情を寄せたくなるが、仕事に大穴を開けたルナを、おいそれと許すわけにはいかなかった。  スタジオ「ピアンタ」にくる前に、テラとともにルナとの話し合いの場を設けた明は、事情を知っているらしかったが、その場にいるだけで、ルナを庇おうとはしなかった。 「みんなには本当に申し訳ないことをしました。謝って許されることじゃないことは自覚してます。でも……っ、二度としません! だから、あたしをもう一度、「フィオーレ」に入れてください……っ!」  誇り高いアルファが、アルファだけの密閉空間ならばまだしも、ハナという異質なオメガのいる前で、なりふり構わず頭を下げる。その状況の異常さに、「フィオーレ」たちが気づいたかどうか。  だが、ルナと連絡がついた時に、ホッとしたのは事実だし、各メンバーとハナ宛てに、謝りたい、と連絡を入れてきたのは、ルナの方だった。 「責められるために戻ってきたの?」 「ミキ、やめなよ」  口火を切ったリーダーのミキの言葉を、オトハが止めた。 「まず、理由を知りたい。それからでないと話はできない」 「うん。ほんとそれ」  オトハの声に、隣りにいたネネが首肯した。  ルナの怪我がどんなものなのかも、復帰するにしても抜けるにしても、リリイベ当日にステージに穴を開けた理由を知らなければ、何も判断ができない。ルナも覚悟はしていたらしく、しおらしい様子で語りはじめた。 「今日は、全部、話すつもりできたから……」  ルナの話は、非常に個人的で、二重の意味での、ファンに対する裏切り行為だった。  ルナには幼馴染がいた。  家がマンションの隣り同士で、同じ女性アルファに生まれたこともあり、すぐに仲良くなったという。  しかし、長ずるにつれ、ルナの親愛の気持ちは、恋心に変化した。 「誓って何かがあったわけではないの。でも……」  女性アルファの恋愛対象は、男女のアルファ及び女性オメガだ。男性オメガのハナとはフェロモンによる誘淫作用がないことから、「フィオーレ」たちから恋愛対象にならない安全パイと思われて、久しかった。  だが、女性アルファ同士は、女性オメガに対するリスクよりは少ないが、誘淫反応が起こりうる。アルファ同士の誘淫は、オメガのもたらす激しいそれとは異なり、穏やかなものが多いせいで、テラがハナに対して示したような、激しい拒絶反応は、一般的にはないが、アルファ同士は関係が拗れないように、各自、自衛する必要性があった。

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