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第5話 謝罪(2)

 幼馴染との関係に思い悩んだルナは、告白という思い切った手段に出る。  だが、新曲アルバムリリースイベントが近くなるにつれて、彼女からの連絡は途絶え、リリイベの最終リハの日に、長い別れのメールが届いた。  曰く、留学するので十年は日本に戻らない。出立は明日、とあった。  ルナは急いで返信したが、電話もメールも拒絶された。連絡手段を絶たれたルナは、最終リハを終えた夜遅く、幼馴染の家を訪ねたが、空振りに終わった。彼女が空港に前乗りで宿泊していることを知ったのは、リリイベ当日の楽屋でだった。  徹底的な拒絶と行き違い。  ルナは葛藤の末、別れ話をするために、成田へと向かった。  空港のエスカレーターで転げて、負傷した足を引きずりながら、幼馴染を探し出し、捕まえた頃には、もう本番がはじまっている時刻だった。 「あたしには、もうステージに立つ資格はないのかもしれない。でもっ……みんなと、一緒に歌いたい。今度こそ、本当に「フィオーレ」として、ステージに立ちたい……!」  嗚咽するように心情を吐露したルナに、ハナをはじめ、「フィオーレ」たちも、その激しい一面に驚いたようだった。一同無言の中、それまで一歩引いていた明が、やがて口を開いた。 「ルナの怪我は捻挫だ。全治三週間。きみらがハナを入れてまで守った場所に、彼女が帰ってくる資格があるのかどうか、よく考えて結論を出してくれ」  促された「フィオーレ」たちが、口々に議論を続け、ひと通り、意見が出尽すと、リーダーのミキが総括した。 「あたしたちの一番は「フィオーレ」だよ。みんなそう。ルナがそうじゃなかったことが、個人的には一番哀しい。でも、ルナが戻ってくるって言ったハナに免じて、今回は不問にしてもいい」 「うん。てか、ルナが戻ってくる前提でハナに代打を頼んだんだし、戻ってきてくれないと、今度はあたしらが困るんだよね」 「表向きには、今のところ「急な発熱」ってことになってるからね」  事情はどうあれ、ハナが言ったとおり、ルナは帰ってきた。一方、「フィオーレ」は四人編成を守ったのだから、ルナを復帰させたいと思うのが、彼女たちの総意のようだった。  ハナは、震えているルナに、そっと問いかけた。 「お別れ、してきたんですよね……?」  ハナの言葉に、苦しげに頷くルナを見た「フィオーレ」たちは、互いに目を合わせると、肩を竦めた。 「なら問題ないでしょ?」 「いや問題なくはないでしょ?」 「いやいや、問題なくなくない?」  場の空気を緩め合った「フィオーレ」たちは、責任を互いに押し付け合いながら、やがて結論を出した。

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