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第6話 過負荷(1)(*)

 仮縫いのために、テラのペントハウスに赴くと、早速、ルナの話題になった。 「戻ってきたのは何よりだったな」  聞くと、明と、テラと、ルナによる話し合いの結果、ルナの戻りたい意志を他のメンバーがどう扱うかで、これからの「フィオーレ」の前途も決まる見通しだったらしい。  それを聞いたハナは、慄然とした。ルナと和解できなかった時のシナリオも、当然、用意されていたのだ。  ルナは、まだ痛々しさを引きずっているが、前を向こうとしている。ハナは、彼女の分も頑張ることでしか、勇気付けられないのがもどかしかった。 「あの、それで、約束ですけど……っ」  思い切って切り出すと、テラは布にマチ針を通しながら眉を顰めた。 「ルナの復帰ライヴまで、まだ時間がある。そのあとでかまわないさ」 「はい……」 「それより、ステージに立つことをやめようとは思わないのか?」  テラはしきりにハナをステージから降ろしたがっていた。オメガである以上、アルファと比較され、否定される覚悟はあったが、こうあからさまに区別を受けると、哀しくなってくる。 「約束は守ります」  たとえそれが、やむなく結ばされたものであっても、一度した約束を反故にするのは、ハナの流儀ではなかった。意固地になっている自覚はあるし、オメガの価値を認めないアルファに処女を捧げるなど、馬鹿げた選択だと思う者もいるだろう。が、ステージに立つ以上、対価は必要だった。  怖くて逃げ出しそうになる自分を、奮い立たせると、テラはそっくり先日と同じように、優雅に寝室へ続くドアを開け、ハナを誘った。 「……そうか。では、こちらへ」 * 「ん……っ」  テラの愛撫は柔らかく優しい。  胸が破れてしまいそうなほどの鼓動を、隠すようにハナは両手を握り締めた。 「力を抜きなさいと、何度言ったら覚えるのか」 「ぁっ」  不意に握った拳を取られ、先端に口付けられると、全身がざわりと総毛立った。決して不快ではなく、まるでそう反応するように刷り込まれているようで、ハナは戸惑いを隠せない。 「悪いようにはしない。きみを」  シャツの上をテラの指先が走る。 「柔らかくするだけのことだ。もっとも、こうして意識されるのも、わたしとしては新鮮で悪くないが」  互いに、抑制剤を飲んでいるのに、テラの甘い香りが鼻腔をくすぐる。身をよじると、ハナの耳にかけたはずの髪が、一房はらりと乱れ落ちた。 (どう、しよ、う……)  愛撫にも満たない接触なのに、腰が抜けそうなほど、気持ちがいい。  身体は素直に反応し、快楽を主張しはじめていた。下着を押し上げ、頭をもたげはじめたものの存在を、どうにか誤魔化したくて、呼吸を繰り返す。

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