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第7話 葛藤(1)
自分は特別、淫乱なのではないか。
ハナは大学の講堂で講義を受けながら、ひとり悩んでいた。
(あんな風に乱れてしまうなんて……)
先日、テラにもらったカード型のキーを入れたパスケースを眺めながら、ハナは、ひとり恥ずかしさに小さく悶えた。
結局、あの日、快楽の源泉には触れてもらえずに、直前で放り出された。膝を震わせながら何とか正気を保っていると、帰る前に「少し休んでいきなさい」と言われ、嫣然と微笑まれた。その笑みが、全部わかっていると言われているようで、ハナはテラの前で、もう顔を上げられなかった。
(オメガに生まれさえしなければ、こんな悩みも持たなかったかもしれないのに……)
今度同じことをされても、次は感じない振りができるだろうか。でないと淫らすぎて、引かれてしまいそうだった。
(──失望、される……?)
そこでふと、思考を止めた。
テラがハナに幻滅するなら、願ったりかなったりだ。
だが、つがいになるかもしれない他の誰かにも、同じようにされて、反応してしまわないだろうか。何より快楽を知った身体は、元には戻らない。もう何も知らなかった頃には、戻れないのだ。
オメガには、少なからず、顔も名前も知らないアルファと、運命のつがいになれることを夢見る側面がある。大人になれば、予定調和的に、そういう相手に巡り逢える、と漠然とした希望を持ち、育つ。年を経るに従い、そもそも出逢いがないし、そう上手くはいかないものなのだと悟るようになるが、それは、ベータたちに囲まれ、自分のバース性をそれとなく誤魔化し、偽りながら生活するうちに、身についた実感だった。
唯一、出逢ったアルファのテラには、むしろ知らなくていいはずの本性を暴かれ、晒されるようで、怖れを感じることの方が多い。
こんな状態では、未来に不安を覚えるのも致し方なかった。
「……以上の観点から、オメガの恋愛は、特に、その身体性と深く結びついているものと考えられる」
ふと講義の言葉に顔を上げると、教授がテキストを閉じたところだった。
「今日、取り上げたところを元に、自分のバース性と他者のそれを比較して、まとめること。以上」
予鈴が鳴ると同時に、レポートの課題が出たことに気づいたハナは、慌ててテキストのページをめくりはじめた。
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