スタジオ「ピアンタ」に行くと、珍しく兄の明が、ダンススタジオにきていた。 　ルナをはじめとする「フィオーレ」のメンバーも、一足先に集まっている。 　が、彼らの雰囲気がいつもと違うことに気づいたハナが周囲を見回すと、やがて明が硬い口調で口火を切った。 「聞いてくれ。いい知らせと悪い知らせがある」 　明は総合演出担当なので、時々、練習風景を見にくることがあるが、今日はそれだけではないようだった。リーダーのミキが「悪い方からお願い」と要請したにもかかわらず、珍しく言い淀んだ。 「実は、ハナについて、一部のファン同士が悶着を起こした」 「えっ」 　が、びっくりしたのはハナだけで、「フィオーレ」たちは息を呑んだものの、冷静だった。それで、ファンの間で起こっている異変について、彼女たちが薄々、認識済みなのだとハナは悟った。 「どうやら過激な一派がいるらしく、ハナ擁護派と排斥派で対立しているようだ」 「そんな……」 　どうして、と思った。ルナの代理として、四人でステージに立ったことが、裏目に出たのだろうか。 　けれど、三人編成で踊ったら、ルナの不在を不安がるファンが出てくるのは、明白だった。 「発端となった事件について、今は調べているところだが、今のところ何があったのか、表に出ている事実関係だけしかわかっていない」 「それって、煽っている人間がいると思ってるってこと？」 　ミキが尋ねると、明は頷いた。 「先日、ハナにコールがかかったろ。あれについての揉め事が、ネットのあちらこちらで散見されている。事務所が把握しているだけでも、掲示板で十五件、苦情のメールが三件。実際に衝突が確認されたのは今のところ、一件だけだが、これから増える可能性もある」 「ぼくがステージに上がったから……」 　自分のしたことで、誰かが傷ついている。ハナはその事実に慄然した。 　しかし、ハナの背中をトン、と後ろにいたルナが支えた。 「こら、ハナ」 　振り返ると、ミキとネネが言う。 「違うでしょ」 「ハナのせいじゃない。揉めてるどっかの馬鹿のせい」 「そうそう。どっかの阿呆な馬鹿のせいだし」 　オトハが支えるように言ってくれる。 「ありがとう……。でも、ステージで浮いてないですか？　ぼく、男だし……」 「あー、それでしきりにＶ確認してたんだ。可愛いとこあんじゃん」 「むしろ五人でやりたいよねって話してたとこだよ。ね？　ルナ」