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第8話 暗雲(2)
握手会やチェキのお渡し会などで、ファンの温度を直に感じ取れる彼女たちだからこそ、わかることがあるのだろう。ネネとオトハが笑い、ルナが頷くと、「えっじゃあ立ち位置は?」「衣装は問題ないよね?」「新曲つくりたいかも!」などと「フィオーレ」の間で話に花が咲く。ルナは戻ってきて以降、SNS上でファンとのやりとりを蜜にしているらしく、反応は上々だと言った。「ハナのことも時々訊かれるよ」と言われ、ハナの方がしどろもどろになってしまう。
「とにかく、こんなご時世だ。排斥派が過激な行動に出ないよう、気を配っているところだが、皆も何かあったら、遠慮せずに言ってくれ。何もなくても気になることがあれば、もれなく相談してほしい。これが悪い方のニュースだ」
明が会話を拾ってまとめると、「フィオーレ」たちは「はーい」と揃って声を上げた。ルナが戻って以降、関わりが濃くなった、というか、グループがチームになったような気がして頼もしい。
「それで、いい方のニュースだが、ルナの復帰ライヴが決まった」
「やったー!」
「いつですか?」
「てか足まだ治ってない……」
「治せ! 気合いで!」
と、まだ日時が発表されてもいないのに、騒ぎ出すところが「フィオーレ」らしかった。
「復活は一ヶ月後のクリスマスライヴに設定する。異論が出なければ、情報解禁するが、大丈夫なようだな? ハナ? ルナ? 皆も、いいか?」
「大丈夫です」
「やります!」
ハナとルナが答えると、「クリスマスだからサンタかなー?」などと今度は衣装の話でひととおり盛り上がる。できればクリスマスメドレーもしくはアレンジなるものがつくりたい、という話になり、作曲担当のオトハが真剣な顔つきになったところで、明がハナに言った。
「ハナ、お前は、衣装のことでまだしばらくは、テラのところへ行く関係があるだろうから、今後はなるべくあいつに送ってもらうようにしなさい。駄目な時は俺が直接、迎えに行くから」
「え、でも……」
正規のメンバーでもないのに、自分だけそんな特別扱いを受けていいのだろうか、と躊躇うハナに、明は念押しするように言った。
「話は通してある。今日も迎えにきているはずだ。俺の代わりに使え。な?」
*
「人気者気取りか?」
とでも嫌味を言われたらどうしよう、とかまえていたが、駐車場へ行くと、テラは一言、「報告は受けている」とだけ言い、フィアットの助手席のドアを静かに開けてくれた。
「あまり気にするな。こういうことはメンバー交代や何かで、ままあることだ」
家まで送り届ける間に、そう言ってハナを元気付けてくれさえしたテラに、逆にハナはずいぶん身勝手で酷い印象を抱いてしまっていたのだ、と反省した。
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