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第10話 転機(3)
ハナは、ひととおり話すと、また腹が鳴り、今度はそれを素直に受け入れることができた。スープをひと口、口にするたびに涙が出て、皿の中に水分だけが還元される。そうしてすすり泣きながら手を動かしていると、やがて腹が落ち着く頃には、気持ちもどこか、すっとしていた。
「あ、の……」
お礼を言うべきなのかもしれない。
だが、気持ちが落ち着いたら、急に吐き出して、晒したことが、恥ずかしくなってきた。すぐ傍にいるテラの顔が、まともに見られない。そのままもじもじしていると、やがて上の空だった様子のテラが、「家まで送ろう」と促した。
*
フィアットで家へ向かいながら、ドアを開ける前に、今日のことをどうにか咀嚼しなければ、とハナは思った。
「明日は火曜日だったな」
「はい」
テラの無為な確認の言葉に頷くと、次にまた言葉を継がれる。
「学校をサボって、水族館へ行かないか」
「えっ」
テラの口から、変な言葉が出たことに気づいたハナが固まるのを見て、苦笑される。
「わたしと水族館へ行くのは嫌か?」
「いえ、そんなことは。でも……どうして」
「予定は? 入っているか?」
牧野のことで頭がいっぱいで、予定を入れるどころではなかった。正直、学校にも、通いたいとは思えなくなっていた。
「それは、サボるのは大丈夫ですが……、ぼくとですか?」
「わたしと一緒では不満か?」
「いえ……! でも、その」
質問に質問で返すコミュニケーションに、次第にテラが不機嫌な顔をするようになってきた頃、ハナはテラのペースに巻き込まれ、少しだが、立ち直っているのを感じた。
だが、気が乗らないのをどう伝えたらいいか、考えていると、ふとテラが呟いた。
「こういう時は独りでいない方がいいんだ」
「テラ……」
「わたしも、少し頭をリセットして、考えたいことがある。いつもはひとりでいくが、連れがいればありがたい。頼めないか?」
アルファの頼みごとは、いつも少しだが、断りづらい。兄の明の時もそうだ。ましてやテラのそれは、お願いされるだけで、応えたくなる。テラの匂いにも慣れてきた頃、これはオメガの業なのだろうか、と思いながら、ハナは抵抗するのを諦めた。
「ぼくで良ければ」
「決まりだな。明日迎えに行く。目的地は横浜だ」
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