「遅くなりました、すみません……！」 　スタジオ「ピアンタ」へゆくと、どこかピリついた空気が漂っていた。 　プロデューサー兼最高責任者の明と渉外兼衣装担当のテラ、それに四人の「フィオーレ」たちが、大学の授業を終わらせて、急いできたハナを待っていた。全員が揃うと、明が強張った声で切り出した。 「悪い知らせがある。心して聞いてくれ」 　明によると、ルナの代わりにフロントに入っている、バックアップメンバーのハナに対して、脅迫メールが届いた、とのことだった。それから、ハナ排斥派を中心としたファンの間で、グッズとＣＤの不買運動が起きつつあることがわかった。 　今のところ、脅迫状を送りつけてきた相手が誰かは、わからず、海外を何度も経由してＩＰアドレスを偽装していることから、犯人を突き止めるのには時間がかかるとのことだった。 「スタッフ、及び警備の数を倍にして対応中だが、クリスマスライヴをどうするか、もう一度、話し合うべきだと思う。我々としては、全力できみらを守るつもりではいる。が、ステージがはじまってしまったら、悔しいが、外野には何もできない」 　忸怩たる声で明が提案したのは、ハナの勇退だった。元々、ハナは「フィオーレ」のバックアップメンバーだ。一時的にステージに立つことはあったが、ルナが帰ってきて、復帰予定も決まっている以上、本来の業務に戻しても差し障りはないとの考えだった。 　しかし、「フィオーレ」たちは口々に反対した。 「今まで四人でやってきたんだから、その線は守るべきだよ」 「ここでハナが引いたら、脅迫犯の奴、味をしめてもっと要求してくるよ」 「同感。それにルナ復帰のライヴまで、まだ二週間残ってる。それはどうするの？」 「あたしは無理すれば入れないことはないけど、ハナと踊ってみたいのが本音。その線で新曲の振り付けも考えてたし……、ハナ次第ではあるけれど」 　そう言うと、四人が四人とも、ハナの方を向いた。 「えっと……」 　ハナは、急にアルファたちから意見を求められたことが、嬉しかった。アルファとオメガの違いはあれど、ハナをメンバーの一員だと考えてくれている彼女たちに、できれば恥じない決断をしたい。 　しかし、ハナ一人のことで済めばいいが、「フィオーレ」たちに、ステージで迷惑をかけることだけは絶対にしたくなかった。明が言うとおり、リスクを取るには大き過ぎる気がする。迷いながら、ふと顔を上げると、テラと視線がぶつかった。 　顎を引き、ひとつ大きく頷いたテラを見て、ハナを「フィオーレ」の一員だと言ってくれたことを思い出した。