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第12話 脅迫状(5)
心臓がギュッと疼く。緊張と期待を足した、甘苦しい感覚が、静かに心を灼いてゆく。
「ぼく、少しは華になれたでしょうか……?」
「……ああ」
ハナの問いに、テラは静かにアクセルを戻し、ハナの家の前のアプローチで車を停めた。
別れ際が名残惜しいと思う日がくるなんて、知り合った頃は、思いもしなかった。テラのイグニッションキーに、マンボウのキーホルダーが付いているのを発見して、ハナはわけもなく嬉しくなった。
「じゃ、次はステージで。……おやすみなさい。送ってくださってありがとう」
「ハナ……!」
「?」
車を降りようとしたところへ、不意にテラが声をかけた。
驚いて振り返ると、テラが何か言いたそうにしていた。
「どうか、しましたか? テラ」
「いや……。何でもない。ゆっくり休んでくれ。また──またステージで逢おう」
「はい。おやすみなさい」
テラが何を言おうとしていたのか、ハナにはわからなかったが、きっとステージのことだろうと思った。
「──頑張ろう」
ハナは、遠ざかるテラのフィアットのテールランプを見ながら、ひとり呟いた。
テラや「フィオーレ」たちに恥じない、最高のステージにしたい。
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