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第13話 誕生日(2)

「……大丈夫かな?」  トイレへと大移動した「フィオーレ」たちを視線で追いながら、不安げに首を傾げたハナに、明が「大丈夫だろ。いつもああだから」と冷静な分析を下した。 「いつもああって、それこそ大丈夫なの? 兄さん」 「やっと緊張が解けたんだろ。最初の一杯だけだ。あとは普通に戻る」 「そうなんだ……」  ステージや客の前での凛とした立ち姿からは想像もつかないことだった。が、アルファにも様々な姿があるのだと、今はすんなり納得できる。帰ってきたら、何もなかった顔で迎えてやろう、と思いながら、オードブルをつまんでいると、明とテラが顔を見合わせて、「ハナ」と呼んだ。 「ん?」 「その、あれだ。脅迫メールの件だが、発信元が割れた」  明が言いづらそうに、深刻な顔で言った。 「──……」 「単独犯だった。もう蹴りはついた。そういうわけだから、安心していい。今後、スタジオ「ピアンタ」にも「フィオーレ」にも近づけないよう、処置を取ったから。それで、だな、その」  奥歯に物が挟まったような物の言い方を続ける明に、テラは視線を送りつつ、黙っている。  しかし、明の言葉から、自然とその意味を悟ったハナは、胸の奥がつかえるように傷むのを感じながら、ノンアルコールのカクテルと一緒に、感情を飲み込み、俯いた。 「いいんです、ごめんなさい……。ぼくの身から出た錆でした。「フィオーレ」に迷惑をかけることになってしまって、本当に、何といったらいいか……」  牧野が一連の事件に噛んでいるのではなかろうかと、ずっとそれだけを恐れていた。1パーセントでも違うという希望があるうちは、彼を疑う自分を疑っていた。疑いが現実になったことで、ハナは確かに傷つきはしたが、こうせずにいられなかった牧野の心の傷の深さを思うと、複雑な気持ちになる。 「そんな言い方をするな。きみは悪くない」  ずっと黙っていたテラは、ハナの言葉に反対するように、ぎゅ、と眉を寄せ、身を乗り出した。 「ハナ。きみが、彼を庇いたくなる気持ちはわかる。だが、断じてこの結果は、きみのせいではない。我々がついていながら、きみに負担をかけてしまったことを、わたしは心苦しく思う。すまなかった」  当然、牧野の名前はテラも知っており、事情を把握しての言葉に、ハナは複雑な笑みを浮かべるよりほかになかった。個人的には、どうしても牧野を憎めない。もしかすると、ここまで牧野を追い詰めたのは、自分かもしれないからだ。 「ちがいます。ぼくはただ、至らない自分が不甲斐ないって思っただけで……」  誰かを責めたいわけではないのだ。  しかし、どの感情も言葉にした途端に薄っぺらくなってしまいそうで、うまくいかないのがもどかしかった。

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