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第13話 誕生日(3)
そんな時、トイレに行っていたはずの「フィオーレ」たちが、歌いながら帰ってきた。
「ハッピ!」
「バースディー!」
「トゥーユー!」
「ヘイ!」
「ハッピ!」
「バースディー!」
「ハーナー!」
「ヘイ!」
「えっ?」
振り返ると、「フィオーレ」たちがケーキの四隅をそれぞれ持っていた。そのまま神輿を担ぐように、テーブルに千鳥足で近づいてくるのが見えた。
「ハッピーバースデー・ディア・ハナ!」
言うなり、テーブルの中心を確保して、ケーキの皿を置く。
そして、クラッカーを派手に鳴らすと、四人で言った。
「誕生日、おめでとー! ハナー!」
幸い、個室を予約していたので、周囲の客たちの視線を気にする必要はなかった。
「おめでと、ハナ!」
「成人おめでとー!」
「お疲れ、ハナー!」
「ハナ、頑張ったねぇ!」
次から次に話しかけられ、そのまま「フィオーレ」たちにもみくちゃにされる。ハナの、シャワーを浴びてまだ生乾きの髪をクシャクシャに撫でてから、それぞれの席に座ると、あとは食い気だという顔で、「フィオーレ」たちはお通しにフォークを突き立てた。
「ほらっ、ハナ! 主賓なんだから、蝋燭!」
「え? あっ、えっ、主賓……っ?」
「今はハナが主役!」
ネネに言われて、慌ててケーキに立っている蝋燭を吹き消すと、「よし、切ろう!」とリーダーのミキがどこからともなくナイフを出した。
「ちょっと、ミキ。それどうしたの?」
「厨房から借りてきた」
「厨房っ?」
「マジか、さすがリーダー」
「ふざけてないで蝋燭どける! お腹空くでしょ!」
「あっ、そうだね」
ハナが腰を浮かすと、「主賓は手出ししなーい!」と、隣りに座るオトハに、スラックスのベルトを持たれて、引き戻される。
「ほいほい。やるやる」
ルナが腰を上げて、ネネが取り皿を用意すると、見事なコンビネーションでホールケーキが切り分けられていった。
「ほらっ、ハナ!」
「あ、ありがとう……」
お礼を言いながら、ハナは胸がじんと滲むのを感じた。ここまで大変なこともあったけれど、くじけずやってきて良かった、と初めて実感を伴って、心が追いついた気がした。
「まぁ、色々あるけど、くじけたら慰めてあげるし、頑張れ」
「ん……、みんな、ありがとう。本当に……」
言われて、ケーキを渡される。
受け取りながらハナは、「フィオーレ」たちは途中、ハナの様子が少しおかしかったことに気づいていたのかもしれない、と思った。彼女たちはアルファだ。ハナがどんなに巧妙に隠したとしても、きっと悟ってしまった気がする。
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